「病院再編」の根底にあるのは人口減少問題
私が医師との面談で最初にお話するのは、国が病院の再編を進めている根本理由についてです。そこをきちんと押さえておかないと、事の本質が見極められないからです。
国が現在進めている病院再編の根底にあるのは「人口問題」です。国の財政赤字や社会保障費の増大などいろいろな問題が指摘されていますが、それらは人口問題が抱える一部の現象にすぎません。氷山と同じで、海面の上に出ている一部が財政赤字や社会保障費の問題であり、海面下には本質である巨大な問題、つまり人口問題が隠れているのです。
では人口問題とは何か。それは人口減少です。少子高齢化が急速に進展した結果、日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減り続けています。2020年9月現在、1億2581万人で、約200万人減少しています。2060年には9000万人を割り込む見通しです(厚生労働省「人口動態統計」)。
人口の減少は経済や産業に影響します。先進7カ国の中で日本の労働生産性は最下位で、OECD加盟国の中でも下位にあります。したがってよほど生産性を向上させない限り、経済成長率は年々低下していくことになります。そうなれば消費は落ち込み、国内産業の多くが縮小していきます。
日本で人口減少の問題が指摘され出したのは古く、1980年代の鈴木善幸総理や中曽根康弘総理の頃に言われ始めました。当時はまだ人口が増えていましたが、いずれ減ることが予想され、それによって税収も減少、財政危機に陥る懸念が高まりだしていたのです。
そうした中、鈴木善幸内閣が「増税なき財政再建」を掲げ、それを達成するために1981年、第二次臨時行政調査会が発足し、行財政改革について審議を行いました。会長を務めた土光敏夫氏の名前から「土光臨調」とも呼ばれます。
土光氏が最初に手がけたのが、国営事業、公共事業で民営化が図れるものは民営化していこうというものです。具体的には「三公社五現業」(日本国有鉄道、日本専売公社、日本電信電話公社の三公社と、郵政・造幣・印刷・国有林野・アルコール専売の五事業の総称)の株式会社化や、空港民営化、公的病院の民間移譲などです。非効率な運営がなされている国営事業や公共事業を民営化することによって、経済の新たなエンジンとすることを目指しました。ご存じのように、国鉄はJR、電電公社はNTT、専売公社はJTになりました。