「社会医療法人」は運営面でさまざま優遇措置がある
前回、米国のピッツバーグ大学医療センター(UPMC)を成功モデルの一つとして、日本でも国が主導して病院再編を進め、医療産業を地域経済のエンジンにしようという動きがあることをご紹介しました。
しかしながら、国による病院再編は容易なことではありません。日本には約8300の病院がありますが、そのうち国公立が約1600で、これらの病院は国主導で再編が可能ですが、民間病院はそうはいかないからです。
そうした中で注目されているのが、「社会医療法人」です。社会医療法人とは、医療法人の区分の1つで、税法上は公益法人等になります。これまで「公益性の高い医療」は、自治体病院(公立病院)が中心に行なってきました。公益性の高い医療とは、救急医療、へき地医療、災害医療など地域社会に必須の医療のことです。
しかし、自治体病院の多くが高コスト体質で慢性的な赤字を抱え、地方財政のひっ迫によって閉鎖に追い込まれる病院が増えています。今後も自治体病院に依存しながら、これらの公益性の高い医療を維持していくことは困難になっているのが実状です。
そこで赤字体質が慢性化している自治体病院に代わって、力のある民間病院に公益性の高い医療を担ってもらおうという狙いで生まれた制度が「社会医療法人」です(2007年施行)。
公益性の高い医療を担うという観点から、社会医療法人の認定を受けるには厳しい要件が設けられています。同族支配の制限、非営利性を高度に担保していること、経営の透明性、優れた経営力などです。
その半面で、一般の医療法人に比べ、運営面でさまざまな優遇措置が設けられています。
たとえば、幅広い社会福祉事業が可能なことや、自治体病院の民営化・指定管理者の公募の際に一般の医療法人よりも有利になります。また、一般の医療法人は非営利法人ではあるものの所得税や法人税が課せられますが、社会医療法人は非課税です。
社会医療法人の数は年々増加しており、2020年1月1日現在、314法人となっています。自治体病院や民間病院を吸収合併する事例も増えています。そもそも社会医療法人になるためには経営基盤が安定していて力があります。実際、全国各地域の有名病院のほとんどが社会医療法人の認定を受けています。
こうして社会医療法人が台頭してくることで、一般の医療法人は自然淘汰されていきます。国はいろいろな角度から社会医療法人の事業拡大を後押しし、病院再編を促している意図が見えます。