日本の病院は8000超、断トツの世界一を誇るが
前回、国が病院の再編を推進する背景についてご説明しました。
その根本には日本の人口減少の問題があり、さまざまな業界や分野で市場が縮小する方向にあります。そのため民間・公共を問わず、統合・再編が進んでいます。それは医療界も同じで、病院の再編は避けられない状況にあります。
まず病院の数を確認しておくと、日本の病院数は世界で断トツトップの8324病院です(2019年)。世界2位は米国の5627病院。日本の人口は約1億2000万人、米国の人口は約3億3000万人ですから、日本の病院数がいかに多いかがわかります。
病院の数が多いということは、各病院が小規模な事業体になっているということです。米国の病院は大規模な事業体で運営されています。
小規模な病院が数多く存在すると、いろいろな弊害が生まれます。たとえば医師や看護師などの医療スタッフが分散配置されるため、チーム医療体制が取りにくくなります。病院規模の大きな米国はチーム医療体制が進んでいます。
また、小規模な病院が多数あると、競争が激しくなり、患者の奪い合いが起きます。その結果、症例が分散してしまうという問題が生まれます。大規模な病院が中心の米国では、症例が一つの病院に集約されていきますので、結果として、医療の高度化、先端化が促進されます。
症例の分散化は、企業の競争力にも影響を及ぼしています。日本の製薬会社や医療機器メーカーの中で、世界的に通用するグローバル企業は2社しかないと評価されています。1社は、医療機器の製造・販売の国内最大手、テルモです。カテーテルや人工心肺装置など循環器領域で、世界で高いシェアを持っています。もう1社は、内視鏡分野で世界トップシェアを占めるなど、医療用の光学機器や顕微鏡分野で世界最大手のオリンパスです。
一方、米国には製薬や医療機器の世界的企業が多く存在します。製薬ではファイザーやメルク、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど。医療機器ではやはりジョンソン・エンド・ジョンソン、GEなどです。
この背景の一つとして、症例が集約されやすい環境にある米国では、製薬や医療機器メーカーが病院にラボを出し、商品開発にあたることが当たり前になっていることがあげられます。治験などが行いやすく、商品開発のサイクルが早いのです。そこで企業の国際競争力が培われています。
日本企業は真逆の環境に置かれているため、世界で勝てる製薬、医療機器メーカーが圧倒的に少ないといわれています。日本の病院の数が多いというのは、そうした側面にも影響を与えているのです。