米国ピッツバーグ大学医療センターの試み
国が病院の再編を推進する狙いの一つとして、病院を大規模化することで経営基盤を強化し、地域経済のエンジン、さらには医療産業を日本経済のエンジンにしようという目論見があるように思えます。
そのモデルケースとして注目されているのが、米国のピッツバーグ大学医療センター(UPMC)です。医療産業を中核として地域再生に成功した先進モデルとして世界的にも脚光を浴びています。
ペンシルバニア州にあるピッツバーグは人口約34万人で、1970年代まではUSスチールの製鉄工場が建ち並ぶ世界有数の鉄鋼都市でした。しかし、1980年代に鉄鋼業が衰退し、地域経済は危機的状況に陥りました。
そこで地元の政財界と学界が一丸となり、医療を中心とした新たな都市づくりを目指す成長戦略ビジョンを打ち出したのです。まずピッツバーグの中心的医療機関であるピッツバーグ大学附属病院を大学から切り離して別法人にしました。収益力のある大学附属病院の競争力を一段と強化するためで、さらに提携先の病院2つと合併して1986年に誕生したのがUPMCです。民間企業の経営手法を取り入れながら、経営力を高めていきました。
UPMCの特徴の一つは、医療事業体の再配置にあります。UPMCは巨大な一つの総合病院ではありません。UPMCは、20病院(約4500床)のほか、がんセンター、画像診断センター、クリニック、介護施設など400以上のサテライト事業所から形成されています。その範囲は東西約200㎞、南北約260㎞に及びます。ペンシルバニア州に隣接する州の一部も含みます。
地域住民にとっては、車で1~2時間もかけて大病院に行く必要はなく、アクセスのよい場所に必要な医療機関があるのです。
医療へのアクセスのよさという点では、日本も恵まれていますが、UPMCと日本では大きな違いがあります。日本は同じ地域に機能が重複した医療機関が多いのに対して、UPMCは機能重複しないように医療機関が最適配置されているのです。
ピッツバーグはもともと医療機関が少なかったので、ほぼ更地の状態のところに計画的に病院を配置しました。そのため機能が重複する病院同士の競争が生まれず、それがUPMCの強みになっています。
病院を最適配置したことで、ピッツバーグは医療産業の集積地帯になりました。多くの医薬品メーカーや医療機器メーカーの研究所が集まり、薬品や商品開発に取り組んでいます。UPMCには症例が集約されるので、治験などが行いやすく、開発のサイクルが非常に早い。そこで企業の国際競争力が培われています。