旧農家出身の地主の男性は、長男である自分が一家の財産をすべて受け継ぎ、それを当然のことと考えてきました。自身も70代となり、相続を意識するようになりましたが、自分と同様に、すべて長男に渡したいと考えています。妻、長女、次男といったほかの家族は何も口をはさみませんが、心の中ではそれぞれ思うところがありました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
頭の固い父親も、妻やほかの子の話にショックを受け…
加藤さんは悩み、考えを改めたようでした。
筆者が改めて話を聞くと、
●妻は住み慣れた自宅で暮らし続けたいので、自宅がほしい
●長女は子どもが受験を控えてお金がかかるため、収益のある駅前の貸家がほしい
●次男は大学の学費と結婚式の費用に該当する程度の現金がほしい
このような要望がそれぞれから出ました。
加藤さんにその旨を伝えると、がっくりと肩を落とし、「私はほかの家族の気持ちをまったくわかっていなかったということですね…」とつぶやきました。
加藤さんは、家族それぞれの希望をかなえる形で、遺言書を作成することにしました。長男には、クリニックをはじめとする複数のテナントが入っている駅前の収益物件と、自身が店を経営する店舗の2ヵ所の不動産を相続させることにし、納得してもらいました。
今回のように、相続人が「長男にすべてを継がせる」といった偏った希望をもつ場合、いくら遺言書を残したとしても、ほかの相続人から反発されるなど、遺留分等を主張されて希望通りの分割をすることはむずかしくなるでしょう。
かつては長男がすべての財産を相続するのが当然のことだったのかもしれませんが、令和となった現在、兄弟姉妹は平等なのです。
兄弟姉妹が親亡きあとも関係を壊すことなく、円満に付き合っていくためには、相続時に問題を残さないことも大切です。その点、被相続人は配慮を欠かさないよう、十分な注意をすべきだといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ
■入所一時金が1000万円を超える…「介護破産」の闇を知る
■47都道府県「NHK受信料不払いランキング」東京・大阪・沖縄がワーストを爆走
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続実務士発!みんなが悩んでいる「相続問題」の実例