コロナショックで景気が急速に悪化する中、あらゆる企業が倒産予備軍である。売上の落ち込みはもちろん、不必要な固定経費も経営圧迫の要因であり、真っ先に見直しを進めるべき部分だ。ここでは、経営コンサルタントの森泰一郎氏がコロナ禍における企業の生存戦略を紹介する。※本連載は、『アフターコロナの経営戦略』(翔泳社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「アフターコロナ」後は、信頼・ブランドこそが価値

そして「アフターコロナ」の2020年代、コロナウイルスという未知のウイルスと対峙したことで、顧客はこれまで以上に商品を買う際に、経済面やデザイン面だけでなく、環境面、衛生面、自分の価値観に合うかなど、多面的にモノを見るようになると予想できる。未知のウイルスを拡散させないために環境保護が重要だと考える消費者は、たとえばアパレル製品などを価格やデザインだけでなく、環境に配慮した商品であるか、衛生的な環境で作られた商品であるかといった部分にまで踏み込んで選ぶようになる。

 

すると、企業の競争優位の源泉は何になるか。それは、企業としての信頼だ。具体的には、「あそこの会社であれば買ってみよう、使ってみよう」「取引しても安心だ」「あそこの会社のビジョンと私の価値観が合う」などと思ってもらえるような信頼やブランドを築けるかどうかである。

 

これまでも確かにブランドは大事であった。しかし、ブランドはルイ・ヴィトンやエルメス、レクサスといった高級品や、コカ・コーラ、ダヴといった競争の激しい消費財で顧客に選択してもらう商品のためのブランドであった。

 

しかし、コロナウイルスの登場によって、多くの顧客は見るべきポイントが変わった。自分たちだけが得をすればよいという視点から、中長期の視点、環境や社会的な責任へと目線が向き始めた。したがって、今後は商品ではなく、企業全体をブランドで見る時代がやってくる。いや、既に北欧など環境や社会的な意識が高い国では2〜3年ほど前からその時代が訪れてきている。それが「アフターコロナ」で当たり前になり、企業の土台にまでなると考えている。

 

元来、ブランドとは、誰が出品した牛なのかを判断するために押す「刻印」のことを指していた。あの出品者であれば安全だ、取引してもよい、高い値段でも買いたいと思ってもらえれば、世界中で販売できる。これが、本来の意味でのブランドである。

 

抽象的でわかりにくいと思われる人には、小山田育氏と渡邊デルーカ瞳氏が『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』(クロスメディア・パブリッシング)の中で述べている広告とPRとブランド(ブランディング)の違いが参考になる。

 

彼らの説明では、広告とは、企業が消費者に対して、「私はおいしいレストラン!」とアピールすること、PRとは、企業と消費者の間にPRが入り、「私を信じて。彼はとってもおいしいレストランなのよ」と言ってもらうことだ。それに対して、ブランディングとは、「あなたっておいしいレストランなのね。一目見てすぐわかったわ」と消費者の側から自発的に認識してもらうことだ。PRや広告は仕掛けがあり、ブランド(ブランディング)とは方向性が異なる。

 

2010年代まで多くの企業が重視していた広告やPRはお金で買える。しかし、ブランドはお金では買えない。だからこそ、「アフターコロナ」から差がつく最初の3年間で、商品ブランドだけでなく企業ブランドをも向上させる目線を全企業が持ち、企業全体のブランディングをしなければならない。

コロナのニーズを製品に反映した「アイリスオーヤマ」

図表2を見ていただきたい。イギリス・インターブランドが発表した2019年度の世界企業ブランドランキングである。上位にはアップルやグーグル、アマゾンなど見知った企業の名前が並ぶ。さらに100位までランキングを見ていくと、日本企業もトヨタ自動車が7位という順位にいるが、ドイツが2社、韓国が7社という結果と比べると、世界の中での日本企業のブランド力は高くない。

 

出典:インターブランド「Best Global Brands 2019」
[図表2]世界企業ブランドランキング2019 出典:インターブランド「Best Global Brands 2019」

 

注意したいのが、ブランド力を高めたいからといって、ブランディングコンサルティング会社にお金を払えばブランディングできるとは考えてはいけない点である。むしろ今のユーザーは賢くなっている。露骨なブランディングだと思われれば、SNSで炎上する危険もある。

 

そうではなく、自社が今後どうなりたいのか、それはなぜなのか、具体的に何をするのかという3点セットを事あるごとにユーザーに表明し、それを理解してもらうことで、徐々にブランドを高めていくのだ。

 

図表3は、企業の視点、ユーザーの視点、社会全体の視点という3つの円の中心点が、三者それぞれの価値の向上につながるスイートスポットであり、これがブランディングの始発点であることを指している図である。

 

[図表3]ブランディングのスタート地点の決め方

 

本連載ではこの考え方を土台において、企業の経営戦略を考えている。したがって、随所に社会やユーザー(消費者)、そして企業という3つの視点を織り交ぜて解説している。

 

たとえばアイリスオーヤマは、「ウィズコロナ」の中で一気に企業ブランド力を向上させた企業である。同社のビジョン・価値観は、「暮らしを楽にする製品」の提供である。

 

同社は、コロナ以前も生活家電や暮らしを便利にするような収納グッズなどを提供してきた。しかし、「ウィズコロナ」で「社会全体の方向性」と「ユーザーの課題」が変化した。日本全体が衛生環境の準備が間に合わず、マスクや職場、家の環境整備を課題として捉えるようになったのである。

 

そして、ユーザーは便利な生活家電だけでなく、衛生面やマスクの生産、空気清浄機といった製品が手に入らないという課題を抱えた。そこで、これまでの技術を応用し、ウイルスカット機能の高い空気清浄機、マスク、オフィスの自動体温測定装置といったユーザーの課題に応える製品開発に力を入れ、「暮らしを楽にする」製品を提供することで、ブランドを築き上げることに成功したのである。

 

「アフターコロナ」の世界では顧客、そして社会からの信頼こそが最も価値ある資源となり、企業の土台である競争優位の源泉が資本やマーケティングなどを越えて、ブランドへと移っていく。まずは図表3のモデルを自社で制作し、「SDMSフレームワーク」を活用しながら、自社の企業ブランドの土台とは何か、議論を進めていただきたい。

 

 

森 泰一郎

経営コンサルタント

 

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