人間心理を巧妙に操り、資産をだまし取る「特殊詐欺」。昔からある「架空請求詐欺」や近年新たに登場した「アポ電強盗」など、その詐欺手口は多岐にわたり、日々巧妙・悪辣化の一途を辿っています。被害に遭わないためには、最新の知識・情報で身を守ることが大切です。※本連載は、NPO法人長寿安心会・代表理事を務める住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

「架空請求詐欺」

前回の記事『注意!オレオレ詐欺に「声がおかしいね」。返事の常套句は…』では、特殊詐欺の大半を占める「オレオレ詐欺」の実態と対処法について解説しました(関連記事参照)。オレオレ詐欺に限らず、特殊詐欺は様々な手口で高齢者を狙っています。

 

はがき、メール、電話などで、「債権や未払い金を支払え」などと虚偽の事実を口実にして金銭を請求するとともに、「請求に応じないと自宅を差し押さえる、強制執行をする、法的措置を講じる」などと、仰々しい文言で被害者を脅しまがいに動転させて、犯人の指定した預貯金口座に現金を振り込ませるという詐欺です。

 

●法的手段で脅す

 

タイプの一つは、民事訴訟に絡めて、「法務省管轄支局民間訴訟告知センター」「法務省民事訴訟管理センター」等を差出人とする郵便物で行われる詐欺です。実際にこのような組織はないということが知られてくると、犯罪組織の側では、「最高裁判所事務総局全国民事訟廷管理官室」(架空組織)とか「東京地方裁判所民事執行センター」(実在組織)などと、手を替え、品を替えて犯行を試み、詐欺のタネが尽きることはないように思えます。

 

「こんな役所があるの?」と疑問に思ったら、警察、消費者相談の窓口へ。記載されている電話番号にかけて確認しようとするのは禁物です。

 

●インターネットの利用に絡めた詐欺

 

犯人はまず被害者に対し、メールや文書で、「サイト利用料金が未納です」「サイト閲覧の無料期間が経過しましたが退会手続きをとられていないので、会員料金が発生しています」「有料サイトの会員に登録されています」などと、虚偽の内容のメールを送りつけてきます。記載されている電話番号等に連絡をとると、「当社ではお客様の端末情報を入手しています。このまま放置すると、延滞料金は毎日加算されていきます」「連絡がない場合、裁判になります」などと言って被害者の不安を煽り、すみやかに料金を支払うことを要求してくるのです。

 

インターネットを使っているときに、いろいろなウェブサイトを閲覧することはあるでしょう。特に、アダルトサイトの閲覧について身に覚えのある男性は、家族に相談することがはばかられ、言われるがまま支払ってしまうこともありそうです。

 

安易に一度でもお金を払ったり、メールや郵便物の文面に記載された宛先に連絡をしたりしてしまうと、犯人に電話番号や勤務先などの個人情報が知られてしまい、その後、遅延損害金や調査料金などの名目をつけて何度もお金を要求され、被害が拡大していきます。

 

確認のためとはいえ、返信は絶対にやめましょう。恥ずかしくても警察・消費者窓口へ相談しましょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

警察官、その他の官公庁・団体職員を詐称する詐欺

●キャッシュカード要求型

 

まずは、警察官や銀行、銀行協会、金融庁の公務員など信用ある機関の職員等と称して電話をかけてきます。「振り込め詐欺の犯人を逮捕したら、あなたの預金口座が事件に使われていることがわかった」「偽のキャッシュカードであなたの預金口座が不正に使用されている」「制度が変わったので」など、さまざまな口実を使って手続きが今必要だと思わせます。

 

次に、偽の警察官や銀行などの職員と称する者が自宅を訪ねてきて、預金口座用のキャッシュカードを被害者に出させます。「この封筒にキャッシュカードと暗証番号を書いたメモを入れて、新しいカードが届くまで自宅で大切に保管してください」などと言って、封筒にキャッシュカードと暗証番号記載のメモを入れさせます。そして、「封印をするので印鑑を持ってきてください」などと言って用事を作ってその場を離れさせます。その隙に、偽のキャッシュカードと本物のキャッシュカードをすり替えるのです。偽のカード入りの封筒を被害者に渡して、本物のカードと暗証番号記載のメモとあわせて騙し取る手口です。犯人は、そのままカードと暗証番号により口座にある現金をそっくり引き出してしまいます。

 

キャッシュカードは現金と同じです。いっときも目を離さないようにしましょう。

 

●公的職員が投資話に太鼓判を押して信用させる劇場型

 

まず犯人は、投資の勧誘電話をかけてきて「〇〇ファンドによる環境保全の取り組みの一環としての投資話」を持ちかけます。

 

それだけなら通常の勧誘電話だと思って多くの人は放置するでしょう。そこへ消費者庁や警察など、公的機関の職員を名乗る者(犯人の仲間)が、「怪しいファンドによる投資話に注意してください」と警告電話をしてくるのです。その際、「先ほど〇〇ファンドからの投資の勧誘があった」と答えると、仲間の者が「それはうらやましい、そこは信用ある選ばれた人だけが誘われるファンドだ」と太鼓判を押すのです。

 

最初の勧誘だけなら本気にしなかったところが、公的機関の職員からお墨付きをもらったと思い込んで信用してしまい、投資話に乗っかって、金銭を騙し取られてしまうのです。うまい話はありません。

 

●還付金型

 

地方自治体の職員などになりすまし、税金、医療費その他の還付や高齢者への年金その他の給付金の受領等に必要な手続きだと思わせ、「遅れていたのですぐにお支払いします」と言って、携帯電話とキャッシュカードを持って金融機関の現金自動預け払い機(ATM)まで誘い出します。そこで携帯電話から指示をしてATMを操作させて、実際は他の預金口座に振り込ませるという手口です。

 

ATMの操作に不慣れな被害者に還付金の受領のための操作をしていると信じ込ませる悪辣なやり方です。そんなやり方をお役所はしません。電話があったら一呼吸おいて、まずは相談です。

シニア資産家を狙う新たな手口、「アポ電強盗」

最近、事前の電話で、高齢者から資産状況を聞き出したうえで犯行に及ぶ手口の強盗事件が相次いで起こっています。

 

犯行手口はオレオレ詐欺のように、被害者の身内になりすまして電話をかけ、「会社の金を使い込んでしまった。弁償しないと警察に突き出されてしまう。今、お金を用意できないか」「会社の健康診断で引っかかって精密検査を受けたらガンだと言われた。手術するのにお金がいる。今、家にどれくらいお金ある?」などと資産状況を聞き出して現金を用意させておいたうえで、複数の犯人で被害者の住居に押し入って強盗を働くというものです。

 

また現金を用意させる口実に、警察等の特殊詐欺対策のキャンペーンを逆手にとり、犯人が警察官を装って「警視庁特殊詐欺対策課のものです。現在捜査中の事件の関係で、あなたがお持ちの紙幣は偽札の可能性があることが判明しました。刑事に確認に行かせますので、紙幣を出しておいてください」などと電話をかけてから押し入る事件も起きています。

 

手口も話題の事柄を使うなど、オレオレ詐欺の手口と共通しています。

 

面会のアポイントメントを取り付ける電話をしたうえでの強盗ですので、略して「アポ電強盗」と呼ばれています。オレオレ詐欺は知能犯の色合いがありましたが、今や、強盗だけでなく殺人にまで至った事件もあり、凶暴化しています。注意が必要です。

 

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シニア六法

シニア六法

住田 裕子(監修、著)

KADOKAWA

実は知らない、「いざ」というとき便利な法律。 変わらず多いオレオレ詐欺、近年増える高齢者による交通事故。認知症ならではのトラブルに、介護にまつわるトラブル…。 いざトラブルに巻き込まれたとき、どういう法律が…

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