年々巧妙化…人の心理に漬け込む「特殊詐欺」の実態
【事例】
息子が突然、電話をかけてきて「会社の金を使い込んだのがバレた! 明日から会計監査が入るので、今日中に200万円を作らないと会社をクビになる」と泣きそうな声で助けを求めてきました。部下がすぐに取りに来るというので、至急銀行に行って現金200万円を用意し、部下という人に渡しました。親不孝者と思いつつ「助けられてよかった」と、ほっとしましたが…。
<オレオレ詐欺にはこの条文!>
刑法 第246条(詐欺罪)
第1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
刑法 第248条(準詐欺罪)
未成年者の知慮浅薄、または人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、または財産上不法の利益を得、もしくは他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。
「特殊詐欺」とは被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込み、その他の方法により、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪のことです。なお、現金等を脅し取る恐喝、および隙を見てキャッシュカード等を窃取する窃盗も含みます。いわゆる「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」などです。
特殊詐欺は、犯罪組織の一種の事業として反復・継続的に行われており、犯行手口を絶え間なく巧妙に進化させています。特別な資産家等でなくても、これら犯罪集団に狙われるおそれがあります。
社会情勢の変化に伴い、次々と新たな手口を編み出し、人間心理を巧妙に操ります。
特殊詐欺の代表「オレオレ詐欺」…つい騙される文言
相変わらず多いオレオレ詐欺。特殊詐欺の半数以上を占めています。その詐欺文言はいろいろです。
「浮気をして、相手を妊娠させてしまい、女性の夫から告訴すると脅されている」
「交通事故を起こした。示談金を支払わないと大変なことになる」
「株に手を出して失敗し、大変な借金を作ってしまった」
「今日が支払い期限で取引先に渡さなければならない会社の小切手を入れた鞄を電車に置き忘れた」
…などなど、至急現金が必要であるかのように被害者を信じ込ませ、動転した被害者に、使いの者に現金を渡させたり、指定した預貯金口座に現金を振り込ませたりするなどの手口による詐欺です。
犯罪組織間で流通している名簿(カモリスト)に従って、事前に個人情報を把握して電話をかけてくることもあります。また、息子などの親族を装うために、犯行の前に、被害者宅に「オレだけど、携帯電話をなくしてしまった」などと電話をかけて、犯人の声色に馴れさせることもあります。さらに会話の中で、被害者から息子の名前等を引き出すという準備がなされることもあります。
「声がおかしいね」と言うと、「風邪をうつされた」と応じるなど、さまざまなシナリオを用意しています。
警察や救急隊員になりすまし不安を煽る「劇場型詐欺」
また、本人だけでなく、警察官や救急隊員になりすまして、まことしやかに、組織名から所属部署名、肩書きや階級まで名乗るなどして電話をかけてきたりします。
(警察官になりすまして)「息子さんが交通事故でけがをして話せないから、代わりに電話している。事故の相手に大きな損害が出てたいそう怒っているので、とりあえず弁償金を支払う方がいい。支払わないと息子さんは逮捕されます」
(弁護士になりすまして)「ご主人が痴漢をしたので、今事情を聞いている。今すぐ示談金を支払って示談すればこの場はおさまる。そうしないと逮捕され、会社にもばれ、裁判になってしまう」
このように、まさに劇の登場人物の一員として虚構の世界に引きずり込み、被害者にショックを与え、不安な気持ちにさせて信じ込ませ、お金を用意させて騙し取る手口です。
臨場感をかもしだすために、事前に録音したパトロールカーの音、駅構内のアナウンスや女性の声などを流したり、1本の電話だけでなく、鉄道会社の職員や弁護士と名乗る者が次々に同じシナリオに沿った電話をかけてきたりするなど、手の込んだ演出がなされることもあります。
まずは一呼吸おき、「信頼できる人」に相談
このような特殊詐欺などの被害を受けないようにするためには、そうした犯罪についての最新の知識を得ておくことが第一です。何か非常事態が起こったときには、自分だけで判断せず、すぐに相談し合える態勢を作っておきましょう。
他にも必要なことはさまざまありますが、手近なこととしては、住居の電話機を特殊詐欺に対応したものに替えることが挙げられます。特に留守番電話機能は、相手方を確認してから対応できるので役立ちます。
また、そのような連絡がきたときのために「驚いた」「怖い」「急かされて焦った」「恥ずかしいので困った」などの状態にあるときには一呼吸おくことです。人間は、ジェットコースターのように心理を揺さぶられると、正常な判断力が働きにくいという性質を持っているのです。
感情が揺さぶられて平常心でいられない状態になったら、いったん電話を切って、すぐに信頼できる人に相談しましょう。その後、本当の相手のこれまでの電話番号に折り返しかけ直しましょう。
「消費者ホットライン」は、契約のトラブルや製品の事故を巡る相談をしたい消費者に、最寄りの消費生活センターや自治体の窓口を案内するサービスです。電話相談の窓口の番号は「188(いやや!)」です。
住田 裕子
弁護士(第一東京弁護士会)
NPO法人長寿安心会 代表理事
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