「相続放棄」までの期間は3カ月間と限られている
<事例>
死亡した被相続人は、亡くなる前に妻と離婚していました。被相続人には長男と次男がおり、その二人が相続人です。その二人は、被相続人が所有していた不動産もローンの残債が多額にあることを気にして、相続放棄をしたほうがよいのか、相続したほうがよいのかを相談にきたのでした。
さらに、離婚をした母親への慰謝料や財産分与については、どのようにしたらよいのか、全くわからない状況でした。
本事例では、被相続人が不動産投資を行っていて複数の不動産ローンを抱えていました。死亡時には、団信に入っていたかどうか不明であり、そのためローンがなくなるかどうかは、わからない状況でした。
このように、被相続人が多額の債務を抱えているような場合、相続することを決める、すなわち単純承認することにより故人の借金までも引き継ぐおそれがあります。そのため、相続人となった者は、ややもすれば「借金を相続するのはいやだから、相続放棄をするしか選択肢はない…」と思いがちです。
しかし、相続財産の中にまとまった額の預貯金や不動産が含まれている場合には、すべての債務を弁済してもなお財産がプラスの形で残る可能性があります。
そこで、まずは資産をくまなく洗い出して、債務を返済することが可能かどうかを慎重に検討すべきなのですが、ネックとなるのは相続放棄までの期間が3カ月間と限られていることです。
実際問題として、会社勤めしていたりなど日々忙しく働いている人にとっては、わずか3カ月の間で、相続財産を調べ尽くすことは困難といってよいでしょう(しかも、四十九日までは喪に服すという人が多いはずなので、それから動くとなると実質的には1カ月半程度しか時間がありません)。
となると、やはり「面倒だ。借金のほうが多いリスクを考えると、さっさと相続放棄してしまおう」という考えに傾いてしまうかもしれません。
600万円程度で売れる見込みだったが…思わぬ事実が!
■正当な理由があれば相続放棄のリミットを延長できる
しかし、実はこの3カ月という相続放棄のリミットは、正当な理由がある場合、延長することが可能です。「3カ月では相続財産が調査できない」などの理由を挙げて裁判所に申し立てることにより、期間を3カ月以上に延ばすことが認められているのです。
相続放棄の期間を延長することによって、相続財産の調査をじっくりと行うための時間を確保することができますし、さらには、遺産分割の選択肢をより広げることが可能となります。
たとえば、この事例では、その後の調査で、ローンのほとんどについて故人が団信に入っていたことがわかりました。そこで、団信によってローンの消滅した不動産を売却し、その代金を残っていたローンなどの返済に充てました。
また、他県で所有していた不動産については、600万円程度で売れる見込みでしたが、年間200万円の賃料が入る優良物件だったことから、売却せずに、離婚した母親に被相続人が生前借りていた借金の代物弁済として譲渡することにしました。その結果、母親には年金以外に年間200万円の賃料収入が入り、生活も楽になりました。
相続放棄の期間を延ばしたことによって、単純に相続放棄を選んだ場合と比べ、相続人やその母親にとってはるかにメリットの多い結果がもたらされることとなったのです。このように、相続財産の中に、債務ばかりが目につくような場合でも、慌てて放棄をするのではなく、まずは相続放棄の期間延長の申立てをして、善後策をじっくりと検討することが大切です。