弁護士が気にした「築20年のアパート」。そういえば…
依頼人が自分の資産を最大限に活用して老後の生活を心身ともに穏やかに過ごすことがで
き、なおかつ相続人にとっても納得のいく財務プランを提案できるようでなければ、任意後見人(任意後見受任者)としては不合格だと私は考えています。
例えば、相続を見越した場合、贈与税の110万円の非課税枠を使って、財産を相続人等
に移動させるという方法があります。1年間110万円までの非課税枠は贈与を受ける側のものであって、贈与する側には金額の制限はありません。子どもたちやその配偶者、さらには孫たちにまで毎年贈与すれば、相続財産をかなり減らすことができ、相続税の軽減につながります。
ただし、「計画贈与」と見なされると贈与税が課税されてしまうので、気をつけなければ
なりません。財務に詳しい人であれば、そのあたりのアドバイスもしてくれることでしょう。
【ステップ4 不動産の有効活用についてのアドバイスも】
田中さん夫妻が紹介されたA弁護士は、丹念に田中家の現状についてヒアリングをしてく
れました。夫妻にとって思いがけなかったのは、所有するアパートの状況について質問を受けたことでした。「築20年のアパートということですが、空室はすぐに埋まっていますか?」と尋ねられ、ハッとしました。
そういえば、ここ2〜3年、空室が埋まるまでの期間が長くなったような気がします。周辺に新しいアパートが何棟も建ったことが影響しているのかもしれません。
そのことを伝えると、弁護士は、「駅に近ければ、古くても部屋は埋まりますが、田中さんのように駅から徒歩12分となると、今後も空室が増えていくかもしれませんね。今売却して、売却益で新しい賃貸物件を買うという方法もあります」とアドバイスしてくれました。
また、高齢になると負担が大きくなる賃貸物件の管理についても、委任契約に定めれば引き受けてもらえると聞き、とても心強い思いがしました。
■この事例で求められたのは「不動産活用」のノウハウ
人は普段、自分では意識していないようなことについて、他者から問いかけられることで
問題点を明確にできることが多いものです。
任意後見契約は、さまざまな要素に配慮しながら内容を決めていかなければならない契約
です。ですから弁護士が、依頼人自身も気づいていないニーズを掘り起こしながら、解決策を提案していけるような能力を持つことは非常に重要になります。
特に財産管理については、依頼者の財産の全貌を把握し、何か問題を抱えていないか、本
人は気づいていないけれども、弁護士としての自分にやってもらいたいことがあるのではないか、という視点でヒアリングを進めることが大切です。
なかでも不動産に関しては、活用の仕方次第で、依頼人の生活を圧迫するマイナス(負)
の「負動産」にもなれば、老後の生活の安定のカギを握る「富」をもたらす「富動産」にもなり得るものなので、弁護士に不動産活用のノウハウがあるかどうかが、問われるところでもあります。