「なんかイヤだな」田中さん夫妻が次に向かったのは…
勇気を出して出向いた先で、あまり親身にもなってもらえないのでは、相談する気が失せるのも無理はありません。
任意後見契約を結ぶということは、自分たちの財産も含めた生活状況について、全てを弁護士にさらすことになるため、弁護士との相性は重要視した方がいいと思います。
また、弁護士の年齢を考慮に入れるというのは、大切なことです。高齢の自分たちと同年代ということは、相手も病気をする可能性が高いということです。複数の異なった年代の弁護士のいる事務所であれば、他の弁護士に引き継ぐことができますが、個人事務所で本人が倒れてしまったら、また新たな弁護士を探し出し、一から契約を締結しなくてはなりません。
一般的に言って、自分の子どもと同世代の弁護士に依頼するのがいいように思います。
【ステップ3 ベストな弁護士に会えた】
最初に会った弁護士に依頼するのをやめることにした田中さん夫妻は、同窓会で会った病
院経営者の友人を頼って、弁護士探しをすることにしました。夫妻は、最初に会った弁護士とのやり取りから、成年後見制度ができてからまだ日が浅く、特に任意後見制度の方は案件が少ないため、弁護士といえども誰もがみな熟知しているわけではない、ということが分かったので、今度は確実な人を見つけたいと思ったのです。そして、友人が任意後見契約を任せた顧問弁護士に、任意後見制度に詳しい弁護士を紹介してもらうことにしました。
それから2週間後、田中さん夫妻は、友人を介して紹介された弁護士の元を訪れました。紹介者である友人の顧問弁護士によれば、「40代で勉強熱心。常に新しいことにチャレンジしようとする気概のある人」ということだったので楽しみにしていました。実際に会ってみたところ、話が分かりやすく、相続を見越した財務的なアドバイスをしてくれました。相続税の負担を軽減するため、今から息子や孫たちに、贈与税の非課税枠を使って、財産を移しておいてはどうかというのです。
■財産管理を委任する以上、財務的なセンスは欠かせない
文章が書けたり、法律的なことをきちんと一般の人に分かりやすく説明できたりする弁護
士はたくさんいます。訴訟や刑事事件の弁護を頼むのなら、そうした弁護士は頼りになるでしょう。
しかし私は、任意後見契約を結ぶ相手としては、それだけでは不十分なのではないかと考
えています。なぜならば、財産管理を委任される以上、依頼者にとって最大限の利益が得られるようなプランニング能力がなければならないと思うからです。
ひと言で言うと、財務的なセンスが必要だということです。法定後見人と任意後見人に求
められるもので、決定的に異なっているのがこの部分なのではないでしょうか。
法定後見人は、できるだけお金を使わず、多くの財産が残るように努力すれば、後見され
ている側が満足するかどうかは別として、職務を全うしたといえるでしょう。しかし、任意後見人は、お金を使わず、たくさん残しただけでは不十分です。任意後見制度は、依頼人が人生の終わりまで、その人らしさや人としての尊厳を失うことなく、美しく生き切るための制度です。