家族や兄弟であってもトラブルになることが非常に多い「遺産分割」。遺恨を残さないためにも知識を身につけ、来たる相続に備えましょう。今回は実例を基に「遺産分割」のよくあるトラブルについて解説します。

遺産分割協議の不成立が認められた事例

その他に、ケースとしては多くないですが、本件のような場合、すなわち、「遺産分割の協議・合意が存在しない場合」、すなわち、遺産分割に関する合意はまだ形成できていなかったものの、とりあえずは何らかの(別の)目的のために、遺産分割協議書にサインをした。」という場合です。遺産分割協議書は存在していても、そもそも、その協議書の内容となっている相続人間の遺産分割に関する合意が存在しないということになりますので、「遺産分割協議は成立していない(遺産分割の合意が存在しない)」と、後から訴訟で主張することができる、ということになります。

 

この点が争いとなり、遺産分割協議の不成立が認められた事例が東京地裁平成25年7月19日判決の事例です。

 

この事例は、遺産分割協議書が2度に渡って作成されていたのですが、いずれも「税務申告のため」、「他の相続人が破産しそうな状況となっていたため、差し押さえなどを逃れるため」という目的のために、相続人間において遺産分割協議書をとりあえず作成したというものです。

 

裁判所は、この事例において、遺産分割協議書が作成された目的や作成された状況、協議書作成後も遺産分割協議が継続していたことなどの事情を総合考慮して、遺産分割協議は存在しているが、遺産分割協議は成立していない、と認定しました。

 

このような事例が起こることはそれほど多くはないと思いますが、いずれにしても、変な企みをして遺産分割協議書にサインをさせたとしても、それは後々取り消される(取り消せる)ものであるということに留意する必要があります。

 


判旨:東京地方裁判所平成25年7月19日判決

 

1「まず,本件協議書1についてみると,前提となる事実及び前記認定事実によれば,本件協議書1には,被告Y1が管理する約2000万円の金員など,亡Aの遺産の一部が記載されておらず,記載されていない遺産の処理について何ら定められていない上,本件訴訟に至っても,亡Aの遺産の範囲については原告と被告らとの間で争いがある。

 

そもそも,本件協議書1は,原告,被告Y2及び被告Y3が被告Y1の準備した原案にその場で署名押印するという経緯で作成されたものであり,同協議書が作成された際に同協議書に記載された遺産に関する資料が確認されたり,事前に亡Aの遺産の内容やその分割方法について原告と被告らとの間で話合いがされたこともなかったのであるから,同協議書について,原告と被告らとの間で,亡Aの遺産の分割に関する協議が具体的に行われた結果が反映されたものとはにわかにいい難い。

 

また,本件協議書1が作成された後についてみても,被告Y2本人は,本件協議書1は相続登記を行うことも目的として作成された旨供述するものの,同協議書に基づく相続登記の手続は行われていないこと,本件協議書1の作成から約4カ月後である平成19年5月以降,原告が寄与分を主張したのに対し,被告らは遺産分割協議が成立し解決済みであるとの対応をするわけではなく,複数回の話合いに応じていること,平成20年3月には本件協議書1とは内容の異なる本件協議書2が,本件協議書1を修正する旨の文言や同協議書の効力等に関する記載もなく,その他,同協議書との関係につき何らの手当ても講じられないままに作成されるに至っていることが認められる。

 

これらの事実は,本件協議書1によって遺産分割協議が成立したと認識している者の行動としては理解し難いものであり,むしろ,原告及び被告らが,本件協議書1の作成時に,亡Aの遺産に関する遺産分割の内容を確定的に決定する意図を有していなかったことをうかがわせる事情というべきである。

 

以上のことに加え,本件協議書1の作成時期や,列挙された各遺産をそれぞれ4分の1ずつに機械的に分割するという内容からみても,本件協議書1は,専ら相続税申告に用いることを目的に作成されたものにすぎないと認めるのが相当であり,これを超えて,同協議書に記載されたとおりの内容をもって,原告と被告らとの間で,亡Aの遺産に関する遺産分割協議が成立したと認めることはできない。」

 

次ページ本件協議書2についてみると…

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