出版市場は近年、右肩下がりを続けています。小説は読まれず、雑誌も発行部数の減少が止まりません。唯一「売れ筋」と言えるのは、実用書やビジネス書、医療・健康書など読者にとって即メリットになるジャンルです。なかでも、企業が出版資金を出し、ブランディングの一環として書籍を作り上げていく「企業出版」には、各社が参入し、盛り上がりを見せています。果たして、この新しいビジネスモデルは、「斜陽」と揶揄される出版業界の救いの手となるのか? 企業出版のパイオニア、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏に話を聞きました。

企業出版で存在感を増している「IT関連」の書籍

幻冬舎メディアコンサルティングは今年、設立15周年を迎えました。この間、企業出版をご一緒したのは大手企業を含め約1300法人、タイトルにして2100を超える書籍を手がけてきました。

 

「読者が調べていけばいくほど、著者である企業にたどり着くという仕組みです」 幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏
「読者が調べていけばいくほど、著者である企業にたどり着くという仕組みです」
幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏

最近の特徴としては、AI(人工知能)やウェブマーケティングなどIT関連の書籍が増えていることがあげられます。企業出版では、大きく6つの業界(「不動産」「金融・投資」「士業」「医療・介護」「教育」「BtoB」)を主要ターゲットにしていると説明しましたが、IT関連は「BtoB」として捉えています。

 

今回は、今年3月に改訂版を出した『ウェブマーケティングという茶番』を例に、企業出版が効果を生む秘訣を説明したいと思います。同書の著者である後藤晴伸氏はウェブマーケティング会社の社長です。

 

ウェブマーケティングの受注というのは、本来ストックビジネスです。1回顧客化すれば、ずっと仕事を受注できるケースが少なくありません。ところが、市場はいま営業戦争のような状態で、ウェブマーケティング会社による売り込み競争が激化し、顧客の奪い合いが激しくなっています。その中では「ウェブマーケティングでこんな効果が出ます」とか、「ウェブマーケティングはこうすれば売り上げが増えます」といった耳障りのいい営業でダマされる経営者が増えているという問題も起きています。

 

多くの企業経営者がウェブマーケティングの必要性は理解しているものの、自身はITに疎いため、現場に任せきりにしている。ところが、現場の人間も多くはウェブマーケティングに詳しいわけではないので、ウェブマーケティング会社の言いなりになっているのが現状です。結果、費用をかけたにもかかわらず、効果が出ないという事態が多くの企業で悩みの種になっています。

業界の内情を白日の下にさらし、問題提起を図る

そこで、ウェブマーケティング会社の乗り換えを検討する企業も増えていますが、この際、発注企業は「前の業者とお宅は何が違うのか」ということを徹底的に尋ねます。しかし、ウェブマーケティング会社の回答にはほとんど差がなく、みな同じ内容なので、違いがよくわからないというのが発注企業側の本音だといわれます。

 

こうなると導入企業の担当者は、自社に一番適したウェブマーケティングとはどういうものなのかを必死に探します。書店にも足を運びます。そこで待ち構えているのが、『ウェブマーケティングという茶番』という書籍なのです。ウェブマーケティングに力を入れなければいけないと考えているところに、「ウェブマーケティングが茶番というのはどういうことなのか?」と非常に気になります。不安を感じるわけです。

 

そこで書籍を読むと、ウェブマーケティング業界は、顧客をだまして適当にやっている、とんでもない業界だという問題提起がなされている。業界の内情が事細かに記されていて、そのうえで、あなたの付き合っている会社もそうではないですかと問いかけてくる。読者は、確かにうちもそうだな、これは何とかしなければと考えるわけです。

 

もちろん書籍には、問題提起の部分に続けて、ウェブマーケティングをきちんとやっている会社はこういう会社だという説明があり、よい会社を見極めるポイントが示される。さらにウェブマーケティング会社を選ぶ際に、騙されないためにはどうすればいいのかが客観的情報として書かれている。そうやって読者が調べていけばいくほど、著者の企業にたどり着くという仕組みです。実際、同書の発売以降、著者の経営するウェブマーケティング会社の売上は2倍以上に増えたといいます。

複雑で分かりにくい商品の魅力をどう伝えるか?

IT関連分野は、企業が新しい商品を開発しても、複雑でわかりにくいという問題があります。ホームページでもうまく伝えられない。たとえば、エスアイヤー(SIer)と呼ばれるシステム開発は、導入費用が数百万円から億円単位になります。システム開発会社は展示会、テレアポ、DMなどあらゆる手段で営業をかけていますが、ウェブマーケティングと同様に、システムを導入する企業側は何が違うのかよくわかりません。

 

一方で、メーカー側も自社の優位性をどう伝えるのかで苦戦しています。そのときに圧倒的な情報量を備える書籍があると、チラシやパンフレットを配るよりも、自社のノウハウなどを伝えやすい。読者も「なるほどこういうことか」と理解できます。書籍にはそもそも信頼性が高いというメリットもあります。

 

今年4月に発売された『解約新書』は、リテンションマーケティングについての書籍です。一般的にはなじみが薄いですが、リテンションマーケティングとはサブスク(サブスクリプション:定額料金を支払うことで一定期間受けられるサービス)などの解約を防止するためのマーケティング手法です。その仕組みは単なるコピーなどではなかなか説明が難しいため、リテンションマーケティングを手がけるクライアント企業のビジネスノウハウや実績などを書籍にして詳しく解説したところ、大きな反響を呼びました。

 

このようにIT関連のビジネスと書籍の相性は抜群だといえます。実際、当社にはいまIT関連企業からの書籍出版の相談が増えており、今後、ますます企業出版が盛んになる業界だと考えています。

 

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