出版市場は近年、右肩下がりを続けています。小説は読まれず、雑誌も発行部数の減少が止まりません。唯一「売れ筋」と言えるのは、実用書やビジネス書、医療・健康書など読者にとって即メリットになるジャンルです。なかでも、企業が出版資金を出し、ブランディングの一環として書籍を作り上げていく「企業出版」には、各社が参入し、盛り上がりを見せています。果たして、この新しいビジネスモデルは、「斜陽」と揶揄される出版業界の救いの手となるのか? 企業出版のパイオニア、株式会社幻冬舎メディアコンサルティングで取締役を務める佐藤大記氏に話を聞きました。

「企業のゴール」と「読者のゴール」を考え抜けるか

多くの企業が抱える「新規顧客開拓(集客強化)」「人材採用」「企業の認知度アップ」「商品・サービスの認知度アップ」などさまざまな経営課題に対して、企業出版はそれらを解決に導く強力な武器になります。その結果、企業は「競合他社との差別化」が図れ、収益アップにつながるのです。

 

「ターゲットとする特定の読者に確実に届く書籍をつくり、企業の利益を最大化させる」 幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏
「ターゲットとする特定の読者に確実に届く書籍をつくり、企業の利益を最大化させる」
幻冬舎メディアコンサルティング 取締役・営業局長 佐藤 大記氏

企業出版という新市場には多くの出版社が相次ぎ参入し、熱気を帯びています。各社、売り込みに鎬を削り、競争は激しさを増しています。

 

一方で、クライアントとなる企業から見ると、それぞれの出版社の差異はわかりにくいかもしれません。そこで、私たち幻冬舎メディアコンサルティングは他の出版社とどこが違うのか、当社独自の「書籍づくり」の観点から、2回に分けて説明したいと思います。

 

私たちは独自に生み出した2つのスキームで書籍を制作しており、その実践に「徹底的にこだわり抜いている」のが特徴です。

 

スキームの一つは「GTRS」と呼ぶものです。「ゴール(G)、ターゲット(T)、リサーチ(R)、書棚(S)」の略です。

 

書籍の制作ではまず、企業の「ゴール」を設定します。ここでは企業が企業出版を通して何を実現したいのかを明確にし、言語化します。このゴール設定は程度の差こそあれ、他の出版社も行っていると思います。私たちが他社と違うのは、さらに読者の「ゴール」も設定する点です。読者が書籍を読んだ後に得られるメリットは何か、そして何を実現したいと考えているのか、ということも明確化し、言語化します。この2つのゴールがかみ合っていないと、クライアントが求める結果を得ることができないからです。

読者像を徹底的に絞り込み、イメージを明確化する

「ターゲット」とは、読者です。読者対象の設定についても、どの出版社も基本的に行っていると思いますが、私たちが違うのは「ペルソナ」を設定していることです。漠然とした読者対象ではなく、年齢、性別、居住地、価値観……という具合に読者像を徹底的に絞り込むのです。たとえば相続問題を取り扱う書籍であれば、単に「50代の相続に悩む人」ではなく、「50代」「男性・女性」「資産5億円規模」「都内に土地を所有」「購読する新聞は……」というようにイメージをより明確化します。

 

「リサーチ」とは、企業を徹底的に調べて知ることです。事業モデル、収益構造、経営者の理念や考えなどのバックボーン、業界でのポジショニング、企業がベンチマークする競合他社などを細かく分析します。加えて、出版業界の類書調査も行います。相続関連であれば、どういう相続の本が出版されているのか、どの本が売れていて、また売れていないのか、ロングセラー本は何か、などを調べ尽くします。

 

「書棚」は、タイトルをつける際に重要になります。私たちは全国約4000の書店とネットワークを築いていますが、その本がどの書棚に置かれるかは書店に任せるしかありません。ですから、本の内容がきちんと書影に表れていないと、書店は私たちが意図した場所とは違う書棚に並べられる可能性があります。そうするとターゲットの読者が訪れる書棚で待ち構えておくことができません。たとえば、相続問題の本がビジネス書の棚に置かれてしまうと、ターゲットとの出合いの確率はほぼゼロになってしまいます。したがって、その本はどこの書棚に置かれるべきなのかまで考えて書籍を作ることが重要になります。

 

このように、書籍の骨組みを精緻に、しかも徹底的にこだわり抜いて作り上げるのが「GTRS」です。

他の出版社の多くは従来型の出版スタイル

書籍の制作における、もう一つのスキームは「TSO」です。「タイトル(T)、サブタイトル(S)、帯コピー(O)」の略です。私たちは、「GTRS」と「TSO」の2つのスキームに基づき、書籍の「構成案」をつくります。構成案については次回詳しく説明します。

 

この2つのスキームによる当社独自の出版ノウハウは、幻冬舎が創業以来、マーケットインの発想で書籍を作ってきた手法に基づいています。幻冬舎はこれまで多数のベストセラー、ミリオンセラーを出してきましたが、それは読者がどんな情報に飢えているのかをもとに、作家に「このテーマで書いていただきたい」とオファーをして生み出したものです。この幻冬舎独自の方程式を法人向けにブラッシュアップしたのが、企業出版なのです。

 

他の出版社の多くは従来型の出版スタイルをとっています。通常の書籍は、作家と話をしながら、作家の意向に沿って内容を決めていきます。いわばプロダクトアウト的な発想と言えるでしょう。したがって私たちのライバル社が手がける企業出版も、そうしたプロダクトアウト的な出版手法を踏襲していると言えます。

 

たとえば、編集者は本の中身を重視する傾向が強いものです。当初企画したものとは違うけれども、企業と話をする中で、こっちのほうがおもしろいとか、売れるのではないかということになると方向転換します。その結果、まったく売れないこともあれば、思いもよらないヒットが生まれることがあるのも確かです。

 

私たちはそうした手法を100%排除しています。これは他社との最大の違いですが、私たちは原点で押し通します。制作途中で「こっちのほうがいいかも」ということで方向転換することはありません。原点である「GTRS」に基づいて、書籍出版の効果の最大化を図る「TSO」。それに合っているかどうかの整合性を最後の最後まで追い続けます。

一点勝負の「シウマイ弁当」を特定の読者に届ける

商業出版の編集者からすると、おもしろいものを捨てるというのは、もったいないと思うかもしれません。しかし、ゴールは最初に設定しているので、誤差なしに終わらせることを私たちは目指します。前述した「徹底的にこだわり抜いている」というのは、この捨て方の勇気にも現れています。企業が喜ぶこと、企業のためになることは何かを考えたときに、「捨て切る」ことが大切だと私たちは考えています。これまでにおよそ2000冊を手がけてきた中で、それは自信を持って断言できる境地に至りました。

 

私たちが作るのは「幕の内弁当」ではなく、「シウマイ弁当」です。この違いが非常に大事だと考えています。他の出版社は、いろいろ詰まった「幕の内弁当」を作っています。私たちは一点勝負の「シウマイ弁当」です。一般の読者ではなく、企業がターゲットとする特定の読者に確実に届く書籍を作り、企業の利益を最大化させる。そして読者に喜んでいただく。ここにフォーカスした書籍づくりに徹しています。

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