難病を患う60代男性は、冷たくあしらい続ける妻に、長年にわたっていらだちと怒りを覚えていました。支えになってくれたのは30代の一人娘です。妻より自分が先立つことを想定し、遺産配分について考えを巡らしていますが、納得のいく分割のためにはどのような手立てがあるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

思い入れある実家跡地を、妻に渡したくない

吉田さんは直近の入院以後、自分にもしものことがあったときに財産をどう分けるべきか、真剣に考えてきたといいます。吉田さんの病気と一緒に戦ってくれたのは長女です。父親の看護のために、多忙な大手企業の総合職から、休暇が取りやすい近隣の会社に転職したほか、海外赴任が決まった恋人との結婚をあきらめてもらった過去もあります。そんな献身的な長女に感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 

とはいえ、配偶者に一切の財産を渡さないというのは現実的ではないため、自分の思い出の土地である、実家跡地の駐車場を託したいと思っています。長女もそれを了承したそうです。

遺言は「自分の意思を伝える」ベストなツール

普段は口が重く、自分の考えや思いを伝えるのが苦手な吉田さんですが、自分の胸の内を明らかにする意味でも、遺言を残しておきたいと考えました。最初はうまく文章にすることがむずかしかったのですが、筆者の会社のスタッフのアドバイスに従って修正を重ね、次第に気持ちが伝わる表現へとまとまっていきました。

 

筆者から吉田さんにアドバイスしたのは、「〈公正証書遺言〉で〈想いを後世に残す〉こと」です。

 

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類ありますが、そのうちの「公正証書遺言」は、法律の専門家である公証人が遺言者の口述を聞き遺言書を作成するため、書式の不備などで無効になるリスクがもっとも低いものです。保管も確実で偽造される心配がなく、裁判所の検認も必要ないので、手間や時間も短縮できます。

 

ただし「公正証書遺言」の場合、2人以上の証人が立ち会うことが必要になります。証人とは、遺言の内容に間違いがないことを証明できる人のことです。未成年者や遺言を書く人の妻・夫・子ども・そして子どもの妻または夫、遺言でなにかをもらう人立場にある人とその妻または夫、そして、両親・孫は証人になれません。今回は、筆者の会社の相続実務士2名が証人となるよう依頼され、立ち会いました。

 

すでに顔なじみとなった筆者の会社のスタッフが証人となったことで、吉田さんは公証役場でもリラックスした様子で遺言書を作成することができました。

 

「私の気持ちは、遺言書のなかに十分書き残せたと思います…」

 

吉田さんは、相談に訪れたときの不安気な様子とは打って変わって、穏やかで優し気な笑顔を見せてくれました。筆者や筆者スタッフも、そんな吉田さんの変化に心から安堵しました。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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