「がん」はお金がかかる病気です。継続的な治療や再発のリスクを考えると、やはり定期収入があると安心でしょう。とはいえ、治療の不安で自ら離職したり、周囲の無理解で仕事を続けられないケースも少なくありません。ここでは、がん治療と仕事の両立のほか、公的制度を最大限活用する方法を紹介します。本連載は、ファイナンシャルプランナーの辻本 由香氏の著書『がんを生きぬくお金と仕事の相談室』(河出書房新社)から一部を抜粋・編集したものです。

会社に内緒にするとあらぬ噂を立てられることも…

私たちが告知を受けて戸惑うように、上司や同僚も報告を受けて驚き戸惑います。「がんになった人=働けない人」という認識もまだ根強く、伝えたことで離職や復帰がしにくくなったという人もいます。治療のために会社を休むとき、誰にどこまで伝えるのか。正直悩みます。

 

理学療法士の道子さん(仮名38歳)は、乳がんになったと上司に告げたことで退職を迫られました。理学療法士は、日常生活をおこなううえで基本となる「寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩く」など動作の改善をサポートするのが仕事です。手術によって腕が上がりにくくなった道子さんの状況を、上司は「仕事ができない」と判断したそうです。

 

「小規模な会社だったので、療養中の人を雇う余裕がなかった」と分析した道子さん。現在は再発することも考えて、大規模なリハビリステーションで「痛みのわかる理学療法士」として仕事をしています。

 

高校教師の太郎さん(仮名46歳)は、まわりに心配をかけたくないと上司以外には詳しいことを告げずに入院しました。半年ぶりに復帰をすると、あらゆる人から「よく戻ってこれたね!」と声を掛けられビックリ。「緩和病棟に入院した」とか「療養のため実家に帰った」など、もう助からないと学校中で噂になっていたようです。

 

噂話を知っていた上司も、個人情報があるため強く否定できず。そのことが余計に話を大きくした原因だったのかもしれません。上司や同僚との関係がギクシャクしてきた太郎さん。転職を視野に入れ、空いた時間は論文作成にいそしんでいます。

 

職場の仲間に話したことで「助かった!」と話す人もいます。

 

光男さん(仮名60歳)は、入院中に上司から「復帰を待っている」とメールをもらったことや、入院先に職場仲間からメッセージ入りの花が届いたことが精神的な支えになったと感じています。仕事のサポートもあり、安心して仕事を休めたと話してくださいました。

 

また、同僚が退院の日にクルマで迎えにきてくれたり、入院中は暇だろうと落語のDVDをもってきてくれたりと、言葉ではなく行動で助けてもらえたことがうれしかったと教えてくれた人も。

 

会社に内緒にしている人もなかにはいますが、体調が思わしくないときに「機嫌が悪い」と受け取られたり、傷病手当金など社会保障が使えなかったりとデメリットも多い。がんになったとはいわず、病気であることや、「治療のため1ヵ月だけ毎朝1時間遅刻する」でもいいかもしれません。「いつからどのような形で復帰できそう」などの見通しを会社や同僚に伝えることで仕事を辞めない工夫をしてはどうでしょうか。

「いまできること、できないこと」を周りに明示する

がんになると、できないことばかりに目が向きがちです。でも、すべてができなくなったわけではないですよね? いままで通りできることや工夫をすれば対処できることも結構あるはずです。20代でがんになった昭紀(仮名)さんは、自身の体調や治療の経過にあわせながら、「いまできること」に取り組みました。

 

早朝に吐血(とけつ)をした昭紀さん。病院で医師から「奥さんと親をすぐに呼んでください」と告げられました。

 

「あ、ドラマで聞いたぞ。このセリフ……」

 

素人が見ても異変がわかるCT画像に、「これはアカン」と思ったそうです。

 

即日入院、そして「がん」と診断。上司には電話で「がんです……」と報告しました。そのとき何か声をかけてもらったはずなのに、記憶がまったくない。「きっと、受け入れたくない事実を記憶から消したんじゃないでしょうか。そうじゃないところは、はっきり覚えているので」

 

それから11ヵ月の闘病中、昭紀さんは会社との接触を持ち続けました。仕事を引き継いだ後輩に電話でお客様の情報を伝えたり、総務や上司から定期的に連絡するよういわれていたため、現状や復帰後の仕事について打ち合わせをしたりしたそうです。

 

また、退院後に家で療養していると暇すぎて、ときどき会社に「元気やで!」と、リハビリを兼ねて出かけていました。会社からは「ゆっくりしたらいいのに」といわれていたにもかかわらずです。

 

療養が長引くと会社と距離ができたように感じてしまい、復帰が難しいと感じる人がいます。また、復帰しても居場所がないと退職を選ぶ人もいます。

 

しんどいときはゆっくり休み、体調が戻ったら復帰できるのがベスト。そのためには、会社との接点を持ち続ける工夫が大事だと、昭紀さんから学びました。

 

自分の取扱説明書をつくるのも、ひとつの方法です。いまは何ができて、何ができない。治療が終わるとできるようになることや、引き続きできない作業もある。そう話しておくことで、会社側も遠慮せずに仕事を振ることができます。

 

「がん」でなくても、生きているといろんなアクシデントに見舞われます。自分ではどうにもならないこともある。何かあっても「お互いさま」といえるような関係を、職場で築けていれば安心ですね。

 

 

辻本 由香

つじもとFP事務所 代表

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