「がん」はお金がかかる病気です。継続的な治療や再発のリスクを考えると、やはり定期収入があると安心でしょう。とはいえ、治療の不安で自ら離職したり、周囲の無理解で仕事を続けられないケースも少なくありません。ここでは、がん治療と仕事の両立のほか、公的制度を最大限活用する方法を紹介します。本連載は、ファイナンシャルプランナーの辻本 由香氏の著書『がんを生きぬくお金と仕事の相談室』(河出書房新社)から一部を抜粋・編集したものです。

配慮を期待するなら、面接で正直に話すべき

面接の場面で「がん」になったことを、伝えるという人もいれば伝えない選択をする人もいます。仕事上で制限のない場合は、自分の気持ちに正直でよいと個人的には思っています。ただ、企業の考えは別のようです。では、再就職を考えるときはどういったことに気をつければよいのでしょうか。

 

企業としては、面接のときに正直に話してほしいというのが本音です。ある企業の人事部長から、100%のチカラで働ける人だと思って雇ったはずなのに、あとから「重たいものはもてません」とか「体調不良でときどき休むことがあります」といわれると、だまされたような気持ちになると聞いてビックリしました。

 

平成25年より始まった厚生労働省の長期療養者就職支援事業では、ハローワークに専門相談員を設置、がん診療をおこなう病院と連携するなどの長期療養者などに対する就職支援モデル事業をスタートしています。そこでは相談者に、求人票の内容を見て仕事をするうえで配慮してもらわなければいけないことがある場合は、申告しておいたほうがよいと伝えています。

 

20代でがんになった昭紀さんも、会社には伝えるべきだと思っています。自身の経験から「がんになる前から働いていた会社でも苦労することはある。ましてや転職で人間関係のないところで働くということは、もっと苦労が増えるだろう」そう考えてのことです。「もし再発をするようなことがあっても、前もって話している!」ということができる。人に助けを求めようとするならば、やっぱり正直に話すしかない。自分をさらけ出すことによって、相手も手を差し伸べてくれたことが経験としていっぱいあります。

 

健康な人とそうでない人が最終面接に残ったら、おそらく天秤(てんびん)にかける。そして、健康な人が選ばれるのは仕方がない。世の中そういうものだから。それでも、「君はどれだけ働けるか?」と聞いてくれる会社だったら、ハンデを上回る何かがあれば雇うこともあるだろうと。

 

企業側も前もってわかっていれば、どの部署に配置できるかを考える余裕もできます。お互い気持ちよく仕事ができるよう、こころに無理がない範囲で伝えておくとベターです。

長期療養中は「再就職」のための面接スキルを磨こう

転職理由や退職理由を質問されたら、どう答えてよいか迷うこともあるでしょう。そのとき、「がんになりました」とだけ答えてしまうと、マイナスのイメージしか残りません。「病気で退職しましたが、いまは何の問題もありません」とか、「経過観察で半年に一度、病院に通っています。そのときだけお休みするか遅刻となりますが、よろしいでしょうか?」など、仕事ができる状況だと伝えると、「入社してもすぐに辞めるかも?」といった、あらぬ妄想(もうそう)を防ぐことができます。

 

また、長期療養をして仕事にブランクがあった場合は、その期間をどう過ごしたかアピールすることも大切です。

 

データ入力が得意な成美さん(仮名43歳)。抗がん剤の副作用で指先に「しびれ」が出て、思うように仕事ができなくなりました。病気の影響もあってか契約は延長されず、家にこもる毎日でした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

このままでは貯蓄が底をつく。危機感を感じた成美さんは、「4か月の訓練なら、なんとか頑張れそう!」と、ハローワークで見つけた「Webサイト制作運営」を学べる職業訓練を受講することにしたのです。

 

中小企業のなかには、ホームページをもっていても更新できる人材が不足していることがあります。ちょうどパソコンに詳しい従業員を募集している企業がある。ハローワークから紹介された企業の面接で、成美さんは職業訓練で「Webサイト制作運営」を学んだとアピール。治療が落ち着けば、データ入力もできる見込みだと伝え、なんとか無事に再就職できることとなりました。

 

成美さんのほかにも、医療事務の資格を活かして病院で働き始めた人や、体調に合わせた働き方をしたいと「おうちサロン」(自宅の居室を利用した教室)を始めた人もいます。

 

技術を習得するために頑張っている時間は、病気を忘れることができる時間でもあります。焦(あせ)らず落ち着いて、いまの自分に合った転職先を探してくださいね。

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