「社長の教祖」と異名を持つ一倉定氏は経営者をよく叱った。叱られるたびに多くの経営者は目を輝かせた。社長の教祖は「世の中に、良い会社とか悪い会社なんてない。あるのは良い社長か悪い社長だけである。会社は社長次第でどうにでもなるんだ」と断言したという。なぜ、令和の時代に「一倉定」が注目されるのか。本連載は作間信司著『伝説の経営コンサルタント 一倉定の社長学』(プレジデント社)からの抜粋です。

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ホテルの会場を埋め尽くす社長の目的

東京駅から徒歩5分、皇居前のパレスホテル、地下1階のゴールデンルーム。350名を超える異業種の社長が一堂に集い、大きな声で互いに近況や市場、お客様の情報交換で一種独特の熱気に包まれている。特に前列は10年、20年と通い続けている常連組。

 

親子で机を並べ、家族ぐるみの付き合いをしているオーナー一族も多く、さながら同窓会の雰囲気である。午前10時きっかりに、ざわついていた会場が一倉先生の登場とともに、ピーンと張りつめた空気に変わり、社長を叱り飛ばすような、教え諭すような一倉節が午後4時まで続き、初日の夕方、希望者の個別相談の長蛇の列が続くのである。

 

社長の教祖の話は毎回気づきが違ったという。(※写真はイメージです/PIXTA)
社長の教祖の話は毎回気づきが違ったという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

私の手元には、当時、一倉先生が講義で使用していた受講用テキストが8冊(2月から始まって年間8コース各2日間、東京・大阪・福岡)あるが、今でもページをめくっていくと、行間から先生の声が聞こえてくるようだ。

 

「いったい、社長はどっちを向いて経営をしているんだ!」「業績不振を社員のせいにするとは、社長の怠慢以外何物でもない」と睨むように怒鳴る声が響いてくるのである。

 

当時、若かった私は、毎年毎年同じように聞こえる話を、多くの社長がなぜ高いお金を払ってまで聞いているのか不思議に思っていた。親しくさせていただいた社長に尋ねたことがある。「傘屋さんの事例の次は、千葉の食品工場の商品開発で……、と次の冗談まで覚えているほどなのに、なぜ出席されるのですか」と。

 

K社長はニヤッと笑って「同じ話でも、聞くこっちの聴き方で、営業方針を変えなきゃとか、新事業の糸口が少し見えて腹が据わったなど、気づきが毎回違ってくるんだよ」と話してくれた。

 

また、富山から来られているA社長は一倉先生に、「とにかく3年間は私の講義を聴き続けなさい」「それと、なるほどと思ったことはとにかく決めて実行しなさいと諭され、素直に従ったんだよ」と。社長のあり方に悩んでいた当時の自分には、考え方の違いに驚くばかりで、3年のうちに会社がみるみる良くなり、「いつの間にか、一倉教の信者になっていた」と懐かしそうに話されたのである。

次ページ一倉社長学で「背中にズドーンと太い柱が建った」
一倉定の社長学

一倉定の社長学

作間 信司

プレジデント社

「社長の教祖」と異名を持つ伝説の経営コンサルタントは経営者をよく叱った。しかし、叱られるたびにに多くの経営者は目を輝かせたという。ユニ・チャーム、ドトールコーヒー、サンマルクカフェなどの創業者たちは教祖の一喝か…

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