コーチングの研修は全部で約130時間にも及びました。そして、1時間の受講の度に課題が課せられるのです。目標を掲げ、自腹を切って始めたことですから、早朝や夜間の時間を何とか利用して研修を受け続けました。
このコーチングの研修をきっかけに、傾聴を心掛け、時間の許す限り医局員の困りごとに耳を傾けたり、困りごとに対する解決策をみんなでディスカッションするようになりました。
医局員は忙しいのにもかかわらず度々私の課題に付き合わされ、「最近はどんなことに困っているの?」などと質問されるのです。
時には「またですか!?」と医局員達に“ウザがられる”こともなくはありませんでした。
しかし、こうして困ったことについて頻繁に傾聴して回ることが、糖尿病内科の「働き方改革」の基礎を固めるのに予想以上にとても役に立ったのです。
まずは、救急外来の搬送患者を減らしたい!
当時、私がぼんやりイメージしていた最終ゴールは、医局員全員を巻き込んで少しでも「時間外労働を減らす」こと。そこで生じた時間を使って、医局員が都会とは違う自然豊かで食の幸に恵まれた「伊豆ライフ」を何かしら満喫することができれば、「静岡病院で働いてよかった」と思ってもらえるのではないか、ということでした。
コーチングを用いて傾聴するのとあわせ、医局員みんなでディスカッションしていくことで着任早々、私たちの「医師の働き方改革」の方向性を3つ掲げることができました。
(1)できる限り不必要な血糖コントロール・トラブルに起因する救急外来の搬送患者を減らす(第5回、6回で解説)。
(2)医療レベルのクオリティを下げることなく、日々の診療体制の効率化を図る(第6回で解説)。
(3)医師から看護師・薬剤師・管理栄養士といったメディカルスタッフへのタスクシフトを行う。それだけでなく、メディカルスタッフも「働き方改革」をやってよかったと思ってもらえるようなモチベーションや、業務スキルがアップする体制を作る(第8回、9回で解説)。
「言うは易く行うは難し」これらを具体的にどう実現していくのかが、本当に難しいと思われる医療関係者の方は多いと思います。正直、私も当初は途方に暮れる思いでした。こういった状況でのスタートでしたので、まさか2年半後に、医局員全員が5時に仕事が終わるようなことが起こるとは、私自身も夢にも思っていませんでした。