一般企業では既に始まっている時間外労働の上限規制が、2024年4月から医師にも適用される。勤務医の時間外労働時間を「原則、年間960時間までとする」とされているが、その実現は困難ではないかと指摘されている。その「医師の働き方改革」を実現した医師がいる。「現場のニーズに応え、仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」という。わずか2年半で、どのように医師の5時帰宅を可能にしたのか――、その舞台裏を明らかにする。

大事なのは、問題も解決策も現場の声を拾うこと

「働き方改革」を我々が可能にしていった原動力こそが、「現場の声を拾い上げ、それを基に解決策を考えていくこと」でした。そして、「現場の声を拾い上げる」ために用いた手法こそがコーチングを用いたコミュニケーションでした。

 

具体的な手法は、後でお話ししますが(第4回で解説)、実際に「現場の声を拾い上げる」作業を地道に行ってみると、医局員のみならず、各コメディカルスタッフたちは、問題点や課題を挙げてくれるだけでなく、同時にその解決策も数多く提案してくれました。私はただ科長として自らの責任のもと、彼らが教えてくれた解決策や提案を徹底的にかつ忠実にみんなで実行できるように“交通整理”を行っていきました。

 

そして、みんなで考えた解決策であったからこそ、打つ策打つ策がことごとく成功し、現場のみんなが働きやすい環境になっていったのだと振り返って今思います。

 

つまり、医局員やコメディカルスタッフが挙げてくれた問題点や課題は、いわゆる経営者や部門長が会議の場のみで考え付くような「机上の空論」とは全く違いました。現場で働く者が日々リアルに感じている課題ですので、いずれも的確に核心をついていたのです。加えて、「自分達が提案したのだから、よくなるように頑張っていこう」という気持ちもこもることになり、より一層施策が上手く運ぶようになるのです。

 

私自身も、初めて診療科長を仰せつかった新米管理職だったからこそ、余計なプライドも持たず、みんなで和気あいあいと業務改善をしていったのが、大きな成果に繋がっていったと言えるのかもしれません。

 

実はこの頃、私自身を「よそ者、若者、馬鹿者」と自分に言い聞かせて、謙虚に、かつ、あまり今までの固定観念に囚われ過ぎない気持ちでいるように心掛けていました。伊豆長岡には、医学部生時代にポリクリ(臨床実習)で来て以来訪れる機会がなく、赴任当初は職場に親しい人はほとんどいない完全な「よそ者」状態でした。そして、特に優秀でもない若造診療科長の「若者、馬鹿者」であったからこそ、「今までの定石に囚われずに、医局運営をしてみよう」という思いを持っていました。

 

では、その「よそ者、若者、馬鹿者」であった私が、「医師の働き方改革」に向けて具体的にどのように方策を練っていったのか、次回から9回にわたる実践編で、お話しして参ります。

 

佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表

 

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