両親と独身の姉、そして自分の家族とにぎやかに暮らしてきた広い家。時は流れ、両親と姉は亡くなりましたが、娘の結婚が決まり、二世帯住宅の計画が持ち上がりました。娘の夢を実現すべく奔走しますが、売却予定の土地には、亡姉の名義が残っており、亡き兄の子たちと遺産分割協議が必要となりました。しかし、兄嫁と甥たちの対応は冷たく…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
兄と兄嫁が抱いていた「積年の思い」とは
亡くなった姉の相続人は、片岡さんと片岡さんの兄ですが、兄もすでに亡くなっているため、兄の子ども2人が代襲相続人となることが判明しました。亡姉の名義を変えるには、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
長男家族とはすでに疎遠になっていましたが、甥たちとの協議は不可欠であるため、間を取り持ってもらうために、兄が亡くなって以降、片岡さんははじめて兄嫁に連絡を取りました。しかし、対応は非常に冷たいものでした。何度も電話をかけ続けていると、そのうち電話にも出てもらえなくなりました。
片岡さんの困った状況を知った筆者は、代わりに兄嫁と連絡を取り、面会することができました。事情を聞いてみたところ、これまでの親戚づきあいのなかで、長年にわたって思うところがあるというのです。
「夫の両親は、夫と下のふたりのきょうだいと、ずいぶん差をつけて育ててきたと聞いています。裕福な家庭だったのに、夫は大学の費用を出してもらえず、ひとりだけ奨学金を受けています。若い間は返済が負担で、うちの家庭は大変でした」
「夫の実家では私もずいぶん疎外感を覚えたものです。義理の両親は私をまるでいないもののように扱って、会うのが苦痛でした」
「義父は弟さんと妹さんをかわいがって手元から話さず、ずっと同居しながら生活費を援助していました。義父が亡くなったとき、ふたりは当然のように夫に相続放棄を迫って、夫はそれを飲んだかたちです。夫の親族とはもう、関わりたくないんです」
その後、兄嫁と甥たちは、当事者同士で話し合いをしたくないという理由で弁護士を立ててきました。そこで筆者は、片岡さんも弁護士へ依頼するようアドバイスしました。
結局のところ、問題となっていたのは金銭的なものではなく、これまでの両親やきょうだいとの関係性や、父親の相続時の処遇、長男が亡くなったときの葬儀の場での発言などが原因のようでした。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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