生き残る病院と潰れる病院がハッキリする
いま、医師たちの転職を促しているのは、新型コロナウイルス騒動だけが理由ではありません。実は、その背景に病院統廃合・病床機能再編が加速していることがあります。(病床機能には[1]高度急性期機能、[2]急性期機能、[3]回復期機能、[4]慢性期機能の4区分がありますが、詳しい内容は略します。)根底にあるのが人口問題です。これまでずっと少子高齢化が叫ばれてきましたが、これがもたらすのは人口減少。結果として生じるのが、日本の財政赤字、年々増え続ける社会保障費ということです。
そこで厚生労働省では、いわゆる“団塊の世代”が75歳以上になる2025年を目途に、各都道府県の医療ニーズの実情に応じた医療提供体制を再構築する地域医療構想を数年前より進めています。キーワードは利便性と機能性、要はスマート化。例えば、これまでバラバラで営業していた個人商店が、それぞれが応分の出資をして、ショッピングモールを立ち上げるようなものです。つまり、部分最適から全体最適へのシフトをしようということです。
当然、生き残れる病院と淘汰される病院がハッキリします。公立・公的病院は地域の実情により生き残る病院の属性は様々なようですが、民間病院において中核を担うのが、社会医療法人(一部の地域では公益財団法人も含まれる)。これは知事の認可を受け、幅広い分野から得られる収益を、病院などの本来事業に使うことができます。私自身、折に触れて、お会いする先生たちにこのことをお話してきました。それが最近よく「あなたのいった通りになってきたね」という評価をいただけるようになりました。
東海地方の公的総合病院の整形外科部長G先生もそうでした。先生は出身大学の医局に在籍し、ある医療センターに勤務していたのですが、昨年の春、公的機関のA総合病院へ異動する辞令が出ました。50歳を目前にして、医療センター時代から将来のキャリアを真剣に検討したようです。このまま異動すべきか、どこか別に新天地を求めるほうがいいのかということです。
以前から相談を受けていた私は、東北地方の社会医療法人であるS病院がいいと考え、見学と面談にも同行しました。先生も雑誌等で理事長の経営哲学にも接していて、ロボット手術や遠隔医療にも対応できる最高水準の医療機器類にも納得されたようです。当時、G先生の年収は2300万円程度。アルバイトや講演代を含めると3000万円になっていたそうです。医師の収入としても高額の部類に入りますから、転職に際してはその点が心配だったのですが、病院サイドは3000万円を提示してくれました。これなら、奥様も納得してくれるに違いないと安心したことを覚えています。
それでもG先生は、公的機関のA総合病院か社会医療法人のS病院かの選択に迷っていたのかもしれません。すぐには返事をもらえませんでした。ところが夏を迎え、A総合病院の身売りが決まったのです。M&Aを仕掛けたのは、関西地方の民間病院。G先生は私の地域医療構想や社会医療法人の話を覚えていて「うちも統合されそうだ。S病院の話はまだ生きているだろうか……」と問い合わせてきたのです。しかし、G先生の転職話が先方に伝わったらしく、買収先の民間病院の理事長から「残ってほしい」と強く慰留されたといいます。A総合病院では先生は稼ぎ頭でしたから当然のことでしょう。「しばらく様子を見たい」というのがG先生の判断でした。