新型コロナウイルス感染拡大で医療現場はひっ迫し、医療崩壊ともいわれるなど、現場の医師や看護師、そして病院に注目が集まった。全国に緊急事態宣言が出された大混乱のさなか、ある医師から一本の電話がヘッドハンターにかかってきた。「どうやら資金ショートの噂が広がり、来年の春まで持たない。紹介できる病院はないか」と。もはや病院といえども安心の職場ではなくなった。ヘッドハンターが医師の転職の舞台裏を明かす。

「転職先を紹介してくれ」と医師からの電話

新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が出ている真っ只中のある日、一本の電話がかかってきた。

 

「来年あたりに転職を考えていたが、どうやら資金ショートの噂が広がり、かなり病院内がざわついている。とてもじゃないが、来年の春まで持たないのではないか」

 

本人が転職先として応募した病院もあるが、それ以外に私から紹介できる病院がないかと、急ぎの依頼電話が入ってきた。そのような話が、2、3件立て続けにあった。

 

これまでヘッドハンティングとは無縁だと思われてきた医師の世界ですが、ここ数年で事情が変わってきています。私ども半蔵門パートナーズは、医師を必要とするクライアントである病院から依頼を受け、ドクターに対してサーチ・スカウト型のヘッドハンティング(エグゼクティブ・サーチ)を手がけています。その数は確実に増えているのです。

 

医師の転職活動が活発化してきた。
医師の転職活動が活発化してきた。

 

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、医療機関にも多大な影響をおよぼしています。日本病院会など病院3団体が6月に発表したデータによると、コロナ禍によって全国の3分の2の病院が赤字に転落しており、コロナ患者を受け入れた東京都内の病院となると9割に上る。マスコミでは“医療崩壊”という表現も使われたほどで、そんな状況下でも、現場の医療関係者は、未知のウイルスとの戦いに不十分な設備で立ち向かい、献身的な対処をしてくれています。

 

新型コロナの影響によって患者数の減少などで資金ショートに陥った病院は身売りや閉院を検討しているところもあるようです。当然、そのことは医師にとって「働く場所をどうするか」という切実な問題になっていきます。さらに、コロナ禍だけでなく、日本の人口減少や国の医療政策など構造的な問題もあり、もはや病院といえども安定的な職場ではなくなってきたといっていいでしょう。

 

私に電話をかけてきたのは、北海道の公立病院の産婦人科で活躍しているN先生です。現在50歳半ば、地元大学の医局から派遣されているのですが、卒業したのは別の医大出身で外様の存在であるため、来年あたりに転職を考えていたそうです。けれども、コロナ禍の最中に病院の経営危機の噂も出て、その時期を早めようと思い、私に助言を求めて連絡をくれたようでした。

 

N先生はこれまで病院の最前線に立ち、分娩もバリバリこなす精力的なドクターです。とはいえ、年齢的にも今後はハードな仕事は避け、婦人科検診などを手がけたいという意向のようです。私が転職先にピックアップしたのは、関西地方のO病院。ここには産婦人科はありませんが、健診センターを有していて、「そこのセンター長にふさわしい人材を」という依頼を受けていたのです。N先生は、総合診療系の資格も多く持っており、いわゆるジェネラリスト志向も強いことから、うってつけの紹介だと確信しています。

 

私たちがクライアントに医師を紹介する際、職務能力もさることながら、それ以上に人物像も重視します。かつての病院側の要求は、急性期を中心とする専門性の高い医師でした。それが最近では専門性を生かしつつ、回復期、訪問・在宅診療、や未病など広範囲に目配りのできる医師に移ってきています。私がコンタクトを持つ医師たちはクライアントの経営方針やマネジメントスタイルをいち早く理解していただけます。そんな医師たちを“適材適所”の視点でマッチングするのは、ヘッドハンターの醍醐味にほかなりません。

 

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30代からの「異業種」転職成功の極意

30代からの「異業種」転職成功の極意

武元 康明

河出書房新社

人の働く道は必ずしもひとつではない。同業種、同職種で一貫性を貫くか、あるいはそれまでの経験・知識をベースとしながらも持ち前の思考行動特性と資質を活かしながら異業種で新たなキャリアを形成するか。それとも2つを同時…

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