今回は、相続税対策に活用できる「4つの贈与」の制度についてお伝えします。 ※本連載は、不動産コンサルタントとして活躍し、自身も賃貸経営を行っている山口智輝氏の新刊で、2015年11月に刊行された『大家業を引き継ぐあなたへ』(セルバ出版)の中から一部を抜粋し、大家業の引き継ぎを成功させるノウハウなどをご紹介します。

110万円まで非課税で渡せる「暦年課税制度」

相続税対策の1つに贈与があります。親から子へ財産を移すことで税金を減らす方法です。生前に贈与することで、争続も未然に防ぐ効果もあります。また、相続だと財産を受け取ると、当然の権利と感じ、親への感謝の気持ちが薄くなる可能性がありますが、贈与の場合、直接受け取るので、感謝され、その気持ちも伝えることができるメリットがあります。

 

しかし、贈与税の税率は、相続税より高く設定されているので、注意が必要です。贈与税の制度は、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」とあわせて、次の4つがあります。

 

⑴ 暦年課税制度

「暦年課税制度」は、年間に1人110万円を超える金額に税率をかけて計算します。毎年110万円以下、もしくは110万円を超え多少贈与税が掛かるくらいで、長期にわたって行えば、親の財産を子どもにうまく移すことができ、相続税を減らすことができます。

 

注意する点は、贈与はあげる人が「あげます」と意思表示し、もらう人が「もらいます」という意思表示、合意が必要です。後からこれを証明するためにも、贈与契約書をつくっておいたほうが安全です。

 

よく問題になるのが、「名義預金」です。親が贈与のつもりで、子や孫の名義で定期預金を積み立てていても、預金の存在を子や孫に伝えていない場合があります。無駄なことに使われてしまうのを心配して伝えていないのですが、存在を知らなければ「もらいます」の意思表示はできませんから、税務上認められず、相続税の対象となります。

 

さらに、仮に子や孫が存在を知り、「もらいます」の意思表示をしていても、親が預金通帳と印鑑を管理し、子や孫が自由に引き出すことができない場合も、贈与と認められない可能性が高いです。また、税務調査では、この部分を特にチェックされます。なお、相続開始3年前までの贈与は、相続税の課税対象になるので、計画的に、早めに始めるべきです。

 

⑵ 相続時精算課税制度

「相続時精算課税制度」は、贈与された財産1人2500万円まで非課税になり、相続時にその分を相続税に含め精算する制度です。この制度は、実際の節税効果はほぼゼロです。メリットがあるのは、もともと相続税がかからない場合には、相続発生前に効果的に財産を移すことができるという点です。また、贈与時の評価額で相続税に加算されるので、価格下落が予想される財産は注意が必要です。

教育資金の一括贈与で1500万円まで非課税

⑶ 配偶者控除の特例

「配偶者控除の特例」は、婚姻期間20年以上の配偶者に自宅などの居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除のほかに2000万円まで控除できる制度です。

 

⑷ 教育資金贈与

「教育資金贈与」は、平成31年12月31日までの時限立法にはなりますが、30歳未満の子や孫に、授業料等の教育資金を一括して贈与した場合には、1人当たり1500万円まで非課税で贈与できる制度です。

 

これについては、そもそも論になるのですが、扶養義務者から被扶養者への教育費の贈与は贈与税の課税対象外なのです。また、教育資金の一括贈与の場合、30歳までに使いきらないと、残った分に対して贈与税がかかるので、あえて活用するメリットは少ないように感じます。

 

生前贈与は、相続税の節税対策としては、メリットがありますが、子や孫のファイナンシャルリテラシーや倫理観が未熟なうちに多額の財産を与えられると、人生観や人間性に問題が生まれ、財産を与えられる前より不幸になる可能性もあるので、慎重に検討しないといけないです。

本連載は、2015年11月20日刊行の書籍『大家業を引き継ぐあなたへ』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大家業を引き継ぐあなたへ

大家業を引き継ぐあなたへ

山口 智輝

セルバ出版

「この本は、大家業を引継ぐ2代目、3代目大家さんが、大家業を通じて明るい未来を描ける本です」 大都市を中心に、元々地主でない不動産大家、サラリーマン大家といった不動産投資家が増加しているが、地方では、元々地主の…

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