中国経済、課題はありながらも回復を継続
■政府の支援策が奏功し国内需要は旺盛
中国経済は政府の経済対策も奏効し、今年3月以降コロナ禍からいち早く立ち上がり、比較的順調に回復してきた。最近の経済統計では、今年5-7月ほどの楽観的な見方はやや後退したが、8月に入っても国内需要が底堅く推移したことが示された。製造業からサービス業への経済回復の恩恵が広がっていることも確認され、コロナ前の経済成長ペースへと戻りつつある。
中国の国家統計局が8月31日に発表した製造業購買担当者景気指数PMI(8月)は51.0で、7月の51.1から低下し、予想の51.2をわずかながら下回った。同国南西部の洪水による生産の一時停止も影響したとみられる。とはいえ景況改善・悪化の分岐点の50は引き続き上回っており、中国の製造業は新型コロナウイルスが流行する前の水準に回復してきているといえるだろう。新規輸出受注指数も49.1と、7月の48.4から一段と改善し、受注の底打ちが示唆されている。
ただ、今夏前に、この回復局面をけん引した建設部門の活動は8月に鈍化したことが判明した。重慶市や四川省の企業が豪雨や洪水の被害を受け、原材料の調達が一時困難となったため生産遅延が発生し、受注を減らしたり、工場での生産規模の縮小を強いられたりしたことも足を引っ張ったものと思われる。ただ、豪雨がおさまれば、中国政府が推進するインフラ建設工事は再開すると考えられ、下支え効果を発揮するだろう。
また、企業規模で回復感に大きな開きがあることも今回の特徴であろう。大企業では政府需要の恩恵が大きいが、小規模企業だけの指数は8月47.7と7月48.6から低下したうえ、50を超えなかった。半数以上の回答が需要の回復が見られないとしていたことや、4割程度の回答が資金繰り難を訴えていたという点は気掛かりである。
非製造業PMIも上昇…「コロナ脱却」の様相が顕著に
翌9月1日に財新/マークイット社が発表したデータで見ると、製造業購買担当者景気指数PMIは53.1で、前月7月の52.8から上昇した。これは、2011年1月以来でおよそ9年ぶりの高水準となり、景況改善・悪化の分岐点となる50を4ヵ月連続で上回っている。生産の増加も継続し約10年ぶりの大幅な伸びを記録しており、需要の回復に応じて製造業者が生産を拡大させていることが示された。
ただ、雇用指数は8ヵ月連続で50を割り込む水準にとどまった。一部の企業では、需要増加に対応するため採用を拡大するなど、雇用市場にも改善の兆しも見られるが、雇用の拡大にまで踏み込むことには躊躇しているようである。
李克強首相は900万人の雇用創出を掲げて、雇用拡大を訴えている。中国政府の政策の後押しは明白だが、雇用拡大が継続するかどうか、企業の雇用に関する態度が楽観的になれるかどうかも重要なポイントになるだろう。
国家統計局のPMIデータにも現れていたが、新規輸出受注が今年初めて増加に転じたことも明るい材料である。中国経済は、これまでは政府の積極的な経済対策により国内需要の回復を支援し、これが景気の谷からの持ち直しに寄与してきたが、鍵を握ると見られていた輸出受注にも明るさが見られたことは朗報である。今後、海外需要が増加すれば、より持続的で幅広い回復につながる可能性が高まるだろう。
非製造業PMIは国家統計局の調査統計では55.2で、前月の54.2から上昇した。財新/マークイット社が9月3日に発表したサービス部門購買担当者景気指数PMI(8月)でも54.0だった(前月7月の54.1からはわずかに低下)。ただ、景況改善・悪化の分岐点となる50は大きく上回っており、4ヵ月連続で節目を超えている。
製造業部門と比べて、これまで回復が遅れていたサービス部門は、中国経済の約60%を占める。製造業に続いて、非製造業部門でも改善が見て取れるようになったことは、景気回復の裾野が広がりつつあることを示唆している。新型コロナウイルスの影響により景気後退を世界に先駆けて経験した中国経済だが、総じて回復してきているとの見方を裏付けるものである。
サービス業での雇用も8月は拡大し雇用市場の回復基調は続いている。ただ、製造業に反して、サービス業での新規受注の伸びは4ヵ月ぶりの低水準となった。新規輸出受注も落ち込みのペースこそ鈍化したが減少傾向が続いている。
輸出は芳しくなく、全体の受注を内需が押し上げて支えている状態であるといえる。従来の指摘の通り、海外需要の回復は緩やかにとどまっており、今後の改善度合いも急回復は難しい見通しである。輸出の回復は、中国経済が今年プラス成長を維持できるかどうかにとって、大きな鍵となる。当面は、中国経済の成長は、国内需要が支える構図が続き、内需依存度が高くなるだろう。
地方債の発行加速…7月の422億元から9208億元と急増
中国経済全体のファイナンス額は8月に3.58兆元を記録し、7月の1.69兆元から大幅に増加した。融資総量では前年比13.3%増加し、7月の同12.9%増加と比べて伸びが加速した。中国当局は、銀行に対して、新型コロナウイルス禍で影響を受けた企業への支援策として、低利融資や手数料の減免を要請してきた。こうした政策が効果を現している。
さらに、中央政府の支援を受けて地方政府が地方債の発行を加速しており、8月は地方債発行額が9208億元と7月の422億元から急増している。8月は7月を上回る傾向があり、ある程度は予想されていたが、予想を上回る伸びを超えたことは好材料だろう。
中国経済は国内総生産が第3四半期には前年同期比で5.0%台の成長、第4四半期には6.0%台の成長と、新型コロナウイルス危機前の水準を回復するとの予想も出てきている。ワイルドカードとしては、米中関係の悪化や冬に向けて再び新型コロナウイルス感染が拡大することへの懸念であろう。
株式市場は停滞…米国との緊張激化が懸念される
■株式相場・人民元相場ともに9月は調整か
中国の株式相場は、今年3月の安値から7月にはCSI300で4852人民元へと上昇した。ただその後は、この高値を抜けきれず、やや膠着状態から調整色を強めている。低金利や政策期待を背景に、株式へ資金が流入したものの、8月は経済回復の一服感も手伝ってやや停滞感が広がっている。
経済回復の軌道にあるとはいえ、前述のとおり政府の経済対策に刺激された国内需要頼みであることや、夏場に入りPMIの改善度合いが緩くなったことなど、強気を支持する材料が弱まっている点が停滞感の背景にある。一段の高値抜けには、こうした経済指標の好転など、支援材料が必要だろう。
米国との関係は、通商交渉こそ第1段階の合意を履行することで決裂などの悪い事態は回避している。しかし、TikTokやWeChatの米国からの排除などハイテク産業での覇権争いの激化、香港問題に関連した外交面でのつば迫り合いや、軍事的には南シナ海で中国がミサイルを使った警告行動に出るなど、緊張関係が緩和に向かう兆候はない。中国経済の動向に同じく、米国との緊張悪化は、株式相場の上値追いに引き続き重しとなろう。
為替相場では、新型コロナウイルスの感染拡大を材料に下落圧力にさらされ、今年5月には1ドル=7.1671人民元まで下げた。人民元は、中国経済の回復が確認されるにつれ、上昇が顕著となった。8月に入ると、人民元は節目である7.00人民元を超える水準で取引され続けたことで、この水準が定着したという安心感は出てきた。ただ、9月に入っても、人民元は上昇を続けて、6.85人民元を超える水準まで上昇しており、この上昇ピッチはやや急すぎるのではないだろうか。株価にも高値追いの力は乏しく、調整圧力には気をつけたい。
人民元は、短期的には、6.85-6.90人民元をコアレンジとして一旦は下値を確認するような局面に入ると予想している。中長期では景気回復期待が継続することから、人民元は6.90人民元水準で下支えされ、緩やかな上昇トレンドを維持すると予想している。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO