追加マイナス金利あり得るか?欧州経済鈍化にユーロドルの行方

上昇基調だった欧州経済に不安の影が見え始めたか。8月のユーロ圏購買担当者景気指数PMIでは、サービスPMIが前月54.7から50.1に低下した。そのほか製造業PMIも小幅に低下しており、景気回復ペースは勢いを失いつつあることが窺える。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏が解説する。

欧州経済…6月の見通しから上方修正も回復ペース鈍化

■ECB9月理事会は、これまでの金融政策を維持

 

9月10日、欧州中央銀行(ECB)は理事会を開催し、新型コロナウイルス感染拡大の影響からダメージを受けたユーロ圏経済を支援するために実施している金融緩和策を維持・継続することを決定した。3月に利下げした政策金利はマイナス0.5%のままで据え置き、パンデミック緊急資産購入プログラム(PEPP)も上限1.35兆ユーロのまま継続する。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ラガルドECB総裁は理事会後の記者会見で、足元のユーロ高について集中的に討議したことを認め、ユーロ高が域内経済に及ぼし得る影響に注意を払っていると明言した。ラガルド総裁があえてユーロ高に言及したことは、それだけ注目が集まっていることを示している。過去1年で10%程度ユーロ高が進んだことは事実(2019年9月末は1ユーロ=1.09水準)で、ECB理事や関係者の発言もこのところ増えていた。ユーロ高が進みすぎると、輸出競争力を削ぎ、物価上昇率を抑える要因にもなる。

 

■ECB経済見通し(9月)は上方修正も回復ペースは鈍化

 

5~6月の欧州経済は、ロックダウンの段階的な解除が進んだことでいったん回復軌道に入った。ECBのエコノミストが理事会開催と同時に公表した経済見通しでは、2020年のユーロ圏成長率(通年)をマイナス8.0%としており、これは6月時点の見通しで示されたマイナス8.7%から上方修正となっている。しかし、経済対策として実施された政府の補助金等が期限を迎えたり、企業の雇用調整やコスト削減の影響が時間的なラグ(遅れ)を伴って現れてきたりと、7月から8月にかけて景気回復の足取りを鈍らせる要因がボディブローのように効いており、景気回復への道のりは盤石ではない。

 

ユーロ圏購買担当者景気指数PMI(8月)で見ると、サービスPMIは前月54.7から50.1に低下した。サービス業では6ヵ月連続で人員削減傾向が見られ、雇用指数は47.7と7月の47.9から悪化した。ロックダウン解除により持ち直した需要が一巡し、サービス業を中心に回復ペースが鈍化したことがわかる。

 

製造業PMIは51.8から51.7と小幅な低下にとどまった。生産指数も55.3から55.7にわずかだが上昇した。製造業の原材料の購入動向を示す指数も49.6と7月の48.3から上昇したものの、節目の50を下回っており、製造業者が生産活動の早期回復を見込んでいないことを示唆している。総合PMIは51.6(速報値)と前月7月から低下した。ユーロ圏では、需要の弱さが鮮明になっており、景気回復ペースは勢いを失いつつあることがここでもわかる。

 

国別で見ると、ドイツ総合購買担当者景気指数PMI(8月速報値)が53.7と、7月の55.3から4ヵ月ぶり低下に転じたことが注目される。50は上回っているものの、市場の事前予想では7月並みの55.0程度を維持するとの見方が多かっただけに、やや驚きだった。要因としては、やはりサービス部門PMIが55.6から50.8へ5ポイント近く下げたことが大きく響いている。製造業PMIは51.0から53.0に上昇しており2年ぶりの水準を回復した。

 

人的な移動制限が一部の地域で再度導入されるなど、ドイツでは雇用市場が全体的に縮小傾向を脱していない。これがサービス部門での活動の停滞感につながってしまっているようである。製造部門でも、工場の稼働率は上がっておらず、実働労働者数が減少傾向を示すなど、引き続き予断を許す状況ではないだろう。

経済鈍化もマイナス金利の深堀りは難しい状況か

■PEPP上限の引き上げ(増額)の可能性

 

さてECBに話を戻そう。景気が持続的な回復軌道に戻るには、新型コロナウイルス封じ込め策の成功が求められるのは誰もが認めるところだ。ECBとしては、為替レート(ユーロ高)の動向やインフレ見通しを慎重に評価しながら、金融政策の微調整を続けることになるのではないか。経済的なリスク要因に対処するために、ECBが追加支援策として年内にPEPPを拡大することは十分に視野に入っているだろう。ただ、現在マイナス0.50%の政策金利をさらに引き下げるマイナス金利の深掘りは、ユーロ高を抑制する効果は一定程度あるだろうが、ユーロ圏内の銀行収益に厳しい状況を作り出す負の遺産とも考えられ、理事会での多数を得ることは難しいのではないか。

 

ユーロドルは、7月末から1ヵ月余り、1ユーロ=1.18-1.19をコアレンジとした狭い幅での膠着状態が続いている。ただ、これを上に抜けていくユーロの強気材料(ユーロ圏経済、早期回復への期待)も難しければ、下に押していく弱気材料(ECBの追加緩和策など)も考えにくい。一方で、米ドルも主要通貨に対する調整圧力にさらされてきた過去3ヵ月ほどの明確な下押し圧力はない。

 

したがって、当面のユーロドルは、今年3月から上昇してきた値幅の調整としての下押しは1.15ドル程度までありうるものの、上値も8月につけた1.20ドル超えは難しく、1.15ドルから1.20ドルの間で、もみ合いを続けると予想する。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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