ルールが不十分なのに「わからないの?」と呆れる日本人の誤解

雇用・運営コストを抑えつつ、人材不足を解消する選択肢「オフショア開発」。本記事では、オフショア開発の価値を最大限に引き出す運用を実現するためのポイントを解説します。※本連載は、株式会社アールテクノの代表取締役である吉山慎二氏の著書『ゼロからわかるオフショア開発入門』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、編集したものです。

費用と時間を最大削減…「オフショア開発」の運用戦略

前回の記事『エンジニアは「ベトナム人をベトナムで雇用」が最強戦略なワケ』では、オフショア開発体制の導入に成功すれば、コストと残業時間の削減において相当劇的な効果が期待できることを述べました。

 

ただ注意していただきたいのは、オフショア開発ルームの設置はパソコンでメモリやグラフィックボードを増設するような話とは違うことです。

 

パソコンなら、新たにメモリを増設したり、より高いスペックのグラフィックボードに入れ替えれば、それだけで処理能力は大きく向上します。しかし、オフショア開発は本社にアタッチメントを装着する感覚で導入しても、まずうまくいかないでしょう。

 

人を増やしてチームを拡張するわけですから、そこには必ずマネジメントの意識が求められます。エンジニアを集めたり法的な手続きに関する処理は、すべてコンサルティング会社がお膳立てしてくれますから、恐らく導入を決めた経営者・部門長は多くの場合「あっけないほど簡単にスタートできた」という感想を抱くはずです。

 

しかし、その感覚のまま運用をしようとすれば、必ずといってよいほど壁にぶつかります。それは、運営する側がチームビルディングのプロセスを軽視しているからです。

 

日本とオフショア開発ルームとの関係はあくまで「人対人」。しかも異なる言語と文化を背負った者同士が一つのチームとして成果を挙げていこうとしているのです。「お金を払っているのだから、向こうが合わせろ」という尊大な意識では、絶対にうまくいきません。むしろ、いかにベトナムの若いエンジニアに「この会社の仕事は分かりやすい」「やりやすい」「学ぶことが多い」そして「楽しい」といった気持ちを抱いてもらえるかといった、謙虚な気持ちが大切だと思います。

 

そこで本記事では、オフショア開発の価値を最大限に引き出す運用を実現するために、ぜひ意識して欲しいポイントについてお話しします。

 

オフショア開発の成功には「同じチームである」という意識が不可欠(※写真はイメージです/PIXTA)
「同じチームである」という意識が不可欠(※写真はイメージです/PIXTA)

日本側に「海外チーム専属の担当者」を置く

オフショア開発を成功に導く第一のポイントは、日本の開発部門の中に専属の担当者をきちんと設置することです。そのスタッフがベトナムチームに指示をし、ベトナムチームへの問い合わせにも対応する。そのようにコミュケーションを一元化することで、開発ルーム側が戸惑う事態を減らすことができます。

 

立場を置き換えれば、この必要性は容易に理解できるのではないでしょうか。もし受注した案件に関して、顧客企業の複数の社員からあれこれとリクエストが飛んでくるようだと、これは仕事になりません。どの社員も「急ぎ目で」などと注文を付けてくるようだと、優先順位も分からず、どこから手をつければよいのか途方に暮れてしまいます。複数の指示に矛盾がある場合、問い合わせなければなりませんが、どちらの指示を出した人も自分のことについてしか分かっていないので、質問をしても的確な返答は期待できません。これではコミュニケーションのストレスだけが生じ、仕事はちっとも進まないという状況が生まれてしまいます。

 

そういうわけで、もしオフショア開発ルームを設置したあと、「こちらからお願いしたいことができた場合は、それぞれの案件の担当者が個別にリクエストを開発ルームに投げる」というルールでの運用を考えているのであれば、やめたほうがよいと思います。

 

特に日本側の仕事の仕方(基本ルール)を学ぶ最中となる初期段階では、「何を教えたか」「何を教えていないか」を一人の人間が把握していないと、教育プロセスにも混乱が生じてしまいます。

 

また担当者を設置する際、日本側のエンジニアの手が塞がることを嫌って事務方のスタッフを窓口にすることにも、私は賛成しません。事務方のスタッフではベトナムからの技術的な問い合わせに対応できず、エンジニアの気質をよく理解している人でないとやり取りが事務的になり過ぎて、開発ルームのエンジニアの能力をうまく引き出すことができない場合が多いからです。

 

私が知る例では、とある機械のメーカーがオフショア開発の体制を導入し、事務方の女性社員1人を専属の担当者にしたケースがあります。経営者は事務部門の管理職とも相談し、その女性社員の業務量を調整して、彼女に1日2時間を開発ルームの対応に充てるように指示をしました。

 

スマートに状況が整理されたように見えますが、結局開発ルームとの連携はうまくいっていないようです。女性社員は、「毎日この2時間をオフショア開発の仕事に使う」のように決め打ちで仕事のスケジュールを組み立ててしまったため、問い合わせが来ても対応が遅かったり、向こうが話したいのに返事をメールで返したりして、仕事に対する相互理解が進まなかったのです。

 

即座に画面で対話していればその日に解決するものが翌日に持ち越しになってしまうようなことが頻発すれば、「オフショア開発を導入したのに、仕事の速度が上がらない」ということになって当然です。事務方ではエンジニアを育てることもできませんから(育てる意識もないでしょう)、仕事の指示は外部業者への発注感覚になってしまいます。

 

初期段階で問い合わせに対してレスポンスがクイックでないと、ベトナムのエンジニアたちは放置されている気持ちになります。疎外感を感じ始めれば積極的に仕事に関わろうとする意欲は当然失われていくでしょう。

 

こうした点も踏まえて、最初はエンジニアの担当者一人がべったり張り付いて、手取り足取り仕事を教えていくくらいで丁度よいと思います。口頭でのコミュニケーションには、ベトナムチームには外国語を聞き取る、日本側には外国人が話す日本語を聞き取る、というストレスがあります。お互いに早く慣れるためにも、日本側の専属の担当者と開発ルームのリーダーとが一対一で密に言葉を交わし合ったほうが信頼関係は構築しやすいのです。

 

信頼関係は仕事の効率化に影響する重要な要素です。短期的には「日本人エンジニアの手がさらに塞がってしまう」という状況が生まれたとしても、腹を括って専属の担当者を立てたほうが半年後、1年後、あるいはその先で必ず効果的なオフショア開発が可能になっていくはずです。

株式会社アールテクノ 代表取締役

1959年神戸市生まれ。明治大学工学部卒業。

株式会社山善にて12年間勤務し、1995年株式会社アールテクノを創業・設立。当初から国内製造業に対してCAD/CAM/CAE、工作機械の販売をサポート。また、インド人・ベトナム人技術者の派遣事業を推進。

2008年から独自のオフショア開発事業を展開し、現在に至る。

著者紹介

連載エンジニア不足に悩む製造業者必読!ポスト・コロナ時代を勝ち抜く「オフショア開発」

ゼロからわかるオフショア開発入門

ゼロからわかるオフショア開発入門

吉山 慎二

幻冬舎メディアコンサルティング

欲しい人材を調達できる。設備投資の負担を軽減できる。人員を長年抱え続けるリスクを減らせる。“いいとこどり”のオフショア開発を徹底解説! 人手不足が深刻化し、終身雇用というモデルも崩壊しつつあるいま、優秀なエン…

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