「外国人は仕事が雑…」と思い込む日本人が気づいていない真実

製造業の深刻な人材不足を解消するよりよい選択肢は、海外に開発ルームを構築する「オフショア開発」です。教育・雇用コストが低く、力のあるエンジニアを長く使い続けられることから、経営者にとっては理想的な方法です。しかし外国人を雇用するとなると、言語の壁など様々な懸念もあるでしょう。ここでは、海外エンジニアの底力を引き出すコツを解説します。※本連載は、株式会社アールテクノの代表取締役である吉山慎二氏の著書『ゼロからわかるオフショア開発入門』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、編集したものです。

そもそも「伝わらない指示」を出している可能性

外国人との仕事で最初に「困った」を感じるのは、やはり「言葉がうまく通じない」「通じた気がしない」でしょう。

 

「言ったとおりに行動しない」=「手を抜いている」のように受け取る人がいますが、それは大きな間違いです。言ったことが伝わっていないから相手は行動しないのであり、もしそうした状況に陥ったら、「伝え方に問題がある」と考えるべきでしょう。

 

こちらは日本語で、しかも自社の専門事業を話題にしているのです。自分の土俵にでん、と構えてふんぞりかえっているような姿勢では、外国人エンジニアたちは動きたくても動けません。

 

解決策は具体的にはいろいろありますが、考え方は一つ。外国人である相手の立場になってみることに尽きると思います。「この指示の仕方で分かりやすいだろうか?」と反芻することを心掛ければ、だんだんとコミュニケーションは改善されていくと思います。

 

仕事に不備があるのは、「伝わる指示の仕方」ができていないから(※写真はイメージです/PIXTA)
仕事の精度が低い原因は、指示の伝え方にある可能性(※写真はイメージです/PIXTA)

指示を出すときは「日本語の教科書」のように話す

指示を伝えたはずなのに、リアクションがなく黙っている。そういうときはたいてい、「分かりません」のサインです。意思疎通では、母語話者のほうが歩み寄り、やさしく分かりやすい日本語を使うように気をつけてやる必要があります。

 

特に年配のエンジニアに多く見かけるのですが、日本人と同じような発音、スピード、滑舌、言葉選びでベトナム人に話しかけている人も少なくありません。

 

それは「英語なら少し分かります」という程度の人に、アメリカ人がネイティブの速度で話しているのと一緒。思いやりがないし、何よりその発言は「伝える」という役割を果たしていません。英語でも、少しなまりがあると簡単な単語すら聞き取れない、ということがよくあります。

 

日本語も同様です。教科書にない発音やイントネーション、その土地の方言、日常会話で崩れた表現などは、日本で仕事をした経験があるエンジニアでも、聞き取りづらいと感じる可能性があります。個々人の発音の癖は外国人にとっては、気になるもの。「この人はこの言葉をこんなふうに発音するんだ」と、理解するまでに時間を要する場合もあります。だから、一人のエンジニアが窓口になったほうがよい、という話もあるわけです。

 

特に、日本語は文末表現が豊富で、口語で崩した言い方も多いので、できればそうした表現は仕事の会話では避けたほうがいいでしょう。「~して欲しいんだけど」「~してくれる?」「~してくんない?」は、意味は同じようなものですが、教科書で勉強しているのは「~してください」とか「~してくれませんか」という言い方。だとすると、このちょっと崩した表現に引っかかって、意味を取り損ねてしまう可能性もあります。

 

仕事に関する話し方のコツとしては、「文末をはっきり言いきる構文にする」というのがお勧めです。例えば、手順を説明する際は「~してから、~しておいて」などと言う代わりに、「~します。次に、~します。」といった区切り方をすると、それだけで伝わりやすくなります。つまり、なるべく簡単な構文で、シンプルな文末で伝えるようにする、というわけです。

 

もちろん、なかには日本語がかなりうまいエンジニアもいますが、それは「当たり」に過ぎません。上手な人がいたら「ラッキー」というくらいの考え方のほうが、意思の疎通はスムーズになると思います。

 

コンサルティング会社では、必要に応じて日本語研修クラスを設け、独自にエンジニアをトレーニングしている場合もあります。そこで、スカイプなどで様子をのぞかせてもらうのも参考になるでしょう。外国語の勉強は通常、対象言語を用いて行われます。日本語教師が学習者に対して、どのような言葉遣いをしているのかを一度でも見ておくと、指示を伝える際、話し方でどのような部分に気をつけたらよいのか、ヒントを得られると思います。

「業界用語」や「類語表現」がエンジニアを混乱させる

図面を「3Dに直しておいて」と「3Dに起こしておいて」は、求めている作業は同じですが、「何か意味が違うのだろうか?」と外国人エンジニアを悩ませる原因になります。同じ作業であれば、必ず同じ表現を使うというルールを準備しておくと、指示と作業のやり取りがスムーズになります。つまり、「仕事を頼むとき」「ダメ出しをするとき」などの状況ごとに、自分なりの定型表現を用いるようにするのです。

 

「同じ作業は同じ指示の言葉で」というパターンがお互いに浸透すると、「本当に伝わったのかな?」と心配する必要がなくなります。

 

前回の記事『ルールが不十分なのに「わからないの?」と呆れる日本人の誤解』で専門用語の日本語・英語・ベトナム語の対応表を作っておいたほうがよいという話をしましたが、その際、併せて動詞表現に関しても整理し、統一感をもたせられるようにしておくとよいでしょう。

 

「アソビをつくる」「刃がビビる」などの業界用語も注意が必要です。ほとんど無意識に使っているイディオム表現が、外国人にとっては「?」となることもあります。話している内容がきちんと伝わっているかどうかは、相手の表情をよく観察し、気になるときは「○○は分かりますか?」と頻繁に確認するようにしましょう。

外国人の本音「日本人の指示は大雑把で分かりにくい」

ベトナム人エンジニアと話をしていて、日本企業とのやりづらさについてよく言われるのが「指示が大雑把で分かりにくい」という意見です。

 

指示された仕事内容を終えてデータを送ると、「もっと分かりやすい図面にしてください」というフィードバックが送られてくる。しかしこれは仕事をしたエンジニアにとっては、単なる感想であって、指示ではありません。誰に分かりやすい必要があるのか、どうすれば分かりやすいのか、何も具体的な指示が書かれていなければ対応のしようがありません。

 

こういうケースでは、仕事を戻す側も「“分かりやすい”とはどういうことか?」をきちんと考え直し、いわば要件定義のように書き出してみる必要があるでしょう。

 

具体的には、「どこに」「どんな情報が」「どのように」記載されていることなのかを、改めて具体的に明らかにしていくことが必要になってくると思います。

 

あるいは、「何が足りないから分かりにくいのか?」を考えてみると、アプローチの助けになるかもしれません。

「外国人=仕事が雑」という大いなる勘違い

日本の企業と仕事をするベトナム人エンジニアからは、「日本人はクオリティに厳しくて、規則に細かい」という声もよく聞かれます。ものづくりは精度が命ですから、そう思われること自体は悪いことではありません。しかし同時に「それなのに、その規則が文書になっていない」という意見もあり、これが彼らを戸惑わせ、ストレスを感じさせる原因になっているようです。

 

仕事を上げると厳しい注文がついて戻ってくるが、その内容が文書のどこにも書かれていない、という状況です。

 

ダメ出しをされたエンジニアとしては、資料やマニュアルを確認したいと思って当然です。ですが、その知見は担当者の頭の中にだけ蓄積されており、オープンになっていない。いかにも職人気質というところですが、これでは外部の人間に思いどおりに仕事をさせるのは、日本人でも難しいでしょう。「文書がないのにマニュアルにうるさい」という感想を抱かせてしまっているケースが意外と多いのです。

 

文書に基づかない指示は、その会社の正しい手順にのっとっているかどうか、外部の人間には判断できません。個人の感想や意見に基づいた指示であるかのように感じさせてしまうと、その仕事の全体像が把握しづらく、窮屈に感じさせてしまいます。最初から資料を参照して、正しい手順に従って仕事ができれば修正作業も発生していなかったかもしれず、工程をムダに感じさせる要因にもなりえます。

 

つまり、その都度口頭やメールで指示をするだけのやり方だと、「大きなルールの中で仕事をしている」という感覚を得づらく、指示を受ける側も場当たり的になってしまうのです。結果、指示をする側は「なかなか仕事を覚えてくれない」という不満を持つかもしれませんが、むしろ「何か伝え方に問題はないだろうか」と検証してみたほうがよいと思います。

 

共通して参照できるマニュアルの指示に従いながら仕事ができると、余裕が生まれるので、新しいアイデアも出やすくなります。小さなことでも何か改善のチャンスを見つけられるかもしれません。

 

反対に、マニュアルのない場当たり的な指示の下では、先回りして考えながら仕事をすることがやりづらく、創造的に仕事に関わることが難しくなってしまいます。

トラブルのほとんどは「指示不足」が原因

指示を出すときは、その都度すべての必要事項を伝えるようにすることも大切です。エンジニアはサボっているのではなく、指示が不十分なせいで、ただ言葉どおりの内容が上がってきているだけなのかもしれないからです。

 

例えば、「A→B→C→D」という順序で行う仕事を教えるとします。日本人に教えるときは、2、3度同じことをやらせて理解したことを確認したら、あとは「AからDまで、頼むね」といえば、その指示に対しても「A→B→C→D」の順序で仕事をするでしょう。

 

しかし、外国語で同様の指示を受けたとしたら、「今回はA→Dの順序でやれ、という意味なのだ」と受け取るかもしれません。「受けた指示をより正確にこなしたい」という気持ちから、そのようなやり方を取ってしまう可能性もありえるのです。

 

したがって、繰り返し同じ作業を指示する場合でも、その内容は省略せず、すべての工程を伝えることが重要です(そのためマニュアルがあると便利なのです)。

 

やがて、仕事に十分慣れたことを確認できたら「『A→Dをしてください』は『A→B→C→Dの作業をしてください』という意味です」と、これもまたよく確認し、そのうえで指示どおりに作業が進むかどうかを確かめるとよいでしょう。

 

伝える手間を早々に省こうとすると、大抵それが原因でトラブルが起こります。

JIS規格が典型例…日本人の常識はベトナム人の非常識

専門分野の素養があり製造業での仕事経験もあるといっても、日本人には当たり前の知識がベトナム人には当たり前ではない、ということは珍しくありません。

 

例えば、JIS規格に関する知識はその典型です。日系メーカーの現地法人で仕事をしたことがあるエンジニアであれば、JIS規格については、当然よく知っていることでしょう。日本の法律についても同様で、何に気をつければよいのかをすでに無意識に行えるようになっているかもしれません。

 

しかし、そうでない場合、エンジニアはISO規格しか知らない、ということも珍しくありません。そもそも世界基準ではそのほうが普通でしょう。

 

たまたま前者の知識を持っているエンジニアを知っているからといって、後者のエンジニアを「デキない」「力がない」と見なすのは、早とちりというものです。自社の業務がどのような専門知識にのっとって組み立てられているのかは、基本的な法律の基準にまでさかのぼって確認し、必要ならば、エンジニアたちにも共有していく必要があります。

 

できないのではなく、知らないだけ。外国人のエンジニアに対しては、そういう眼差しで向き合うようにすると、効果的な教え方や伝え方が少しずつ見えてくるのではないかと思います。

 

 

吉山 慎二
株式会社アールテクノ 代表取締役

株式会社アールテクノ 代表取締役

1959年神戸市生まれ。明治大学工学部卒業。

株式会社山善にて12年間勤務し、1995年株式会社アールテクノを創業・設立。当初から国内製造業に対してCAD/CAM/CAE、工作機械の販売をサポート。また、インド人・ベトナム人技術者の派遣事業を推進。

2008年から独自のオフショア開発事業を展開し、現在に至る。

著者紹介

連載エンジニア不足に悩む製造業者必読!ポスト・コロナ時代を勝ち抜く「オフショア開発」

ゼロからわかるオフショア開発入門

ゼロからわかるオフショア開発入門

吉山 慎二

幻冬舎メディアコンサルティング

欲しい人材を調達できる。設備投資の負担を軽減できる。人員を長年抱え続けるリスクを減らせる。“いいとこどり”のオフショア開発を徹底解説! 人手不足が深刻化し、終身雇用というモデルも崩壊しつつあるいま、優秀なエン…

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