雇用・運営コストを抑えつつ、人材不足を解消する選択肢「オフショア開発」。本記事では、オフショア開発の価値を最大限に引き出す運用を実現するためのポイントを解説します。※本連載は、株式会社アールテクノの代表取締役である吉山慎二氏の著書『ゼロからわかるオフショア開発入門』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、編集したものです。

現場の仕事処理能力を上げる「ルールづくり」

オフショア開発を導入する際には、非常に基本的な部分から社内で共有されている仕事ルールを洗い出し、できれば文書化しておくことをおすすめします。

 

日本人同士であれば一度口頭で簡単に指示をすれば済むようなルールでも、距離を隔てた外国人のチームには分かりづらいということがよくあります。「空気を読む」という言葉がありますが、日本人なら察することができる暗黙のルールでも外国人にはまったく気づくことができないという場合も少なくありません。

 

特に仕事の進め方のルールの中には、ふとしたきっかけでなんとなく定着していったものもあるでしょう。細かいものまでよく振り返り整理しておくことで、ベトナムチームにも早く同じようなやり方で仕事をしてもらえるようにしておきたいものです。

 

例えば、仕事で必要な資料ファイルが共用サーバーにアップされているとします。日本人のエンジニアであれば、なんとなくディレクトリを下って目当てのデータにたどり着けるかも知れませんが、外国人のエンジニアには「ここから探してください」と親ページのURLのリンクを伝えるだけでは、それすら難しい場合があります。

 

過去に用いた類似の設計図をさっと参照して現在の仕事が速く進められるといっても、そのファイルに至ることができなければ、時間のロスになるだけです。日本の開発室ではなんとなく情報が共有されているので、どこに何があるのかはみんなぼんやりと分かっており、手探りでも探せます。しかし、初めてそのアーカイブを見た外国人にとっては、全体像を把握するのは至難の業なのです。

 

そういうサーバーの中には、手すきの時間に目を通して勉強しておいてくれるとありがたい資料もあるでしょう。それをいちいち日本側で探し出して「これを読んでおいて」と指示するのは、さすがに手間がかかり過ぎます。

 

最初は「資料データの探し方」も画面越しに実演するなりしてレクチャーする必要がありますし、やがて自力で目的のファイルに辿り着けるようにディレクトリを整理する必要もあるでしょう。あるいは、どこに何があるのかが一望できる資料を作成するとよいです。

 

とにかく外国人が初めて見ても、分かりやすいように、情報はシンプルなルールで整理し直しておく必要があるのです。

 

「Aという作業が終わったら、Bをする。それが終わったらC。うまくできない場合は、Bに戻ってⅹを確認する。…」そんな作業順序も、分かりやすいマニュアルにしておくのです。

 

パソコンに座る後輩を先輩が後ろから教える、といった伝え方はできませんし、同じエンジニアといっても、仕事の進め方には前職の影響で“色”が付いてしまっている可能性もあります。非常に初歩的なルールや手順まで文書にして整理しておくことで、あらゆる作業でそれを確認しながら、誤解や過不足なく進めておけるようにしておくことが理想です。

 

マニュアルに則って作業を進めるようにさせれば、「今日はどこまで終わっていて、明日はどこからなのか」の質問も容易にできます。担当のエンジニアが急に休んでしまったときの引き継ぎも資料に基づいて行えればより確実です。

 

仕事をしながら発覚する認識の違いをゼロにすることはもちろん不可能です。しかし、それでも事前にできるだけ備えておくほうが大きなトラブルは起こりにくいと思います。

 

例えば、見落としがちな初歩的ルールには、「ファイル名のつけ方」があります。

 

仮に、開発室ではファイル名を「顧客名_案件の略称_担当者名_作成日」のようにつけることが暗黙のルールになっているという場合、日本人の新人エンジニアなら、ファイルサーバーにほかの人がアップしたファイルを見て、その意図するところをすぐに理解するかもしれません。あるいは、先輩がひと言教えてやればそれで済みます。

 

しかし、オフショア開発ルームのベトナム人にとっては外国語の羅列ですから、その意図を十分汲み取ることはできないと考えたほうがよいでしょう。

 

つまり、外国人のために作業マニュアルを作成する際は、そこまで戻って文書化してやったほうが安心なのです。

 

「こんなことが伝わっていなかったのか!」とびっくりすることは、日本人同士よりも基本的な場面で起こりえます。

 

そこで、仕事を与える際は、初日から本業の作業をさせるのではなく専用アプリケーションを使ったトレーニングから入っていったほうが安心かもしれません。設計図を見せて、「これと同じものをつくってみて」と、ごく簡単な仕事をさせてみるのです。こうすれば、相手の力量を安全に観察することができますし、コミュニケーションがどの程度成立しているのかも推し量ることができます。

 

いきなり実際の仕事に関わる作業を振って失敗してしまうと、任せたほうも任されたほうも苦い記憶からのスタートになってしまい、その後は守りに入りがちになってしまいかねません。お互いなるべく成功体験から入っていけるようにしたほうがベターです。そこで、ごく簡単な作業を指示し、やらせてみるというかたちで、お互いに「オフショア開発」を練習する機会を設けるのです。

日本語・英語・現地語で「専門用語の対応表」を作る

仕事内容を文書化する過程で絶対に欠かせないのは、専門用語の対応表を作っておくことです。さもないと、エンジニアの知識レベルや力量を低く見積もってしまう可能性もあり、大きな機会損失になりかねません。

 

例えば、「ベアリングって分かる?」と日本語で尋ねたら、ベトナム人のエンジニアは「知らない」と言うかもしれません。「ベアリング。bearing。知ってる?」と、英語で伝えても分からないかもしれません。

 

しかし、そこで「君、ベアリングも知らないの?」と呆れてしまうのは、まことに早計です。

 

ベアリングはベトナム語では「mang(マン)」。当然、ほとんどのベトナム人エンジニアは知っているはずです。あるいは、画像検索などで「これのこと」と言っても、大抵の場合、「知っています」となるはずです。

 

しかし、専門用語が出てくるたびに、いちいちこんな確認作業をしていたら、仕事になりません。オフショア開発ルームの設置が決まったら、自社で頻繁に使われる専門用語を洗い出し、英語・ベトナム語に対応させる作業を進めましょう。オフショア開発を導入した大手メーカーでは、4000語以上の専門用語について辞典を作成している例もあります。

 

「ベトナムのエンジニアが専門用語を日本語で何というか知らなかっただけで、本来できる仕事を与えることができなかった」となれば、これは非常にもったいないことです。「モノは知っているが、言葉を知らない」という状況が生じてしまうと、エンジニアのポテンシャルを十分に発揮させることができません。

 

逆に、オフショア開発が始まる前にベトナム人エンジニアに対応表を渡し、事前に目を通しておいてもらうことにすれば、時間を有効に使うことが可能となります。

 

[図表]FA用語リスト

 

 

吉山 慎二
株式会社アールテクノ 代表取締役

ゼロからわかるオフショア開発入門

ゼロからわかるオフショア開発入門

吉山 慎二

幻冬舎メディアコンサルティング

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