国内製造業の人手不足は深刻です。若手社員にこそ任せたい下流工程の仕事を中堅以上の社員が担わざるを得ないため、受注能力や処理能力が低下し、ひいては業績にまで影響を及ぼしています。しかし、新卒も経験者も捕まらず、かといって人材派遣や請負業者ではコストに難があるというのが実態です。それでは、外国人の人材はどうでしょうか?※本連載は、株式会社アールテクノの代表取締役である吉山慎二氏の著書『ゼロからわかるオフショア開発入門』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、編集したものです。

国内人材では、コストに見合う結果が得られない

あわよくば新規採用を視野に入れつつ、派遣社員や請負業者を利用しながら、だましだましで現状の人手不足をしのいでいる…というのが、多くの製造業の現場の実態ではないでしょうか。

 

中堅社員の負担を減らすには、とにかく“手”を増やすしかありません。しかし新規採用を通して即戦力と出会える確率はほとんど皆無に等しい。かといって、ある程度経験のある派遣社員に来てもらい、自社の業務のイロハを教えながら仕事を分担させるのはコストがかかり過ぎる。しかも派遣社員は、繁忙期だけ供給を受けるような利用の場合、前回教えた派遣社員がまた次の機会にも来てくれるとは限らない。つまり、教える時間と手間、何より費用がムダになる可能性も高いでしょう。

 

請負業者の場合、技術×環境という二つの側面からのマッチングが難しい場合が少なくありません。仕事ぶりを観察することができないせいで細かい指導はできず、納品データの出し戻しのやり取りの手間もバカにできません。したがって、社内の従業員の負担を大幅に減らす手立てとしては決定的とは言い難い…。

 

会社のエンジニア部門の人的体制の穴を国内人材の調達によって塞ごうとすると、どんな方法であっても、「帯に短したすきに長し」という評価になってしまうというのが、多くの経営者および部門長が長年抱いている感覚ではないかと思います。もはや、ずっとこの問題が解決されないせいで、頭を悩ませるのに疲れてしまったという方もいるはずです。

 

国内人材の調達で不満が生じてしまう大きな原因の一つは、やはりコストです。コストがかかるから、雇用をするにしても、人材派遣を利用するにしても、請負業者を利用するにしても、「それなら、もっといい人が欲しい」「より的確に動いてもらえるサービスを利用したい」といった見返りを求める気持ちが強くなってしまうわけです。

 

「こんなにかかるなら、もっといい人が欲しい」という不満が生じがち
国内人材を調達しても「コストがかさむわりに…」という不満が生じがち

 

もちろん「安かろう、悪かろう」では困りますが、ここで人材を調達するコストをある程度大幅に削減することができたら、ソリューションに対する感想も変わってくるはずです。有り体に言えば、もし「値段の割に、いい人を使えている」という状況を生み出すことができれば、人材不足の状況下でも希望を持つことができるはずです。

 

少し前置きが長くなりましたが、そんな考え方から、今度は外国人の人材を調達して人手不足を解消する可能性について考えてみたいと思います。

外国人にとっても「いなかの工場」勤めはネック

ロケーションを含めた会社の魅力は、外国人人材を活用する際にも、重要なカギとなってきます。

 

例えば、北米では派遣社員を使う場合、時給100ドルを超えるオファーが必要なことが普通にあります。というのも、アメリカでは車通勤が常識だからです(オフィス街の近くに住んでいるのは本当の高給取りばかりです)。

 

しかし、日本で海外からの派遣社員に同様のオファーをするのは、費用の面からいって、不可能と言わざるを得ないでしょう。かといって「本社や工場の近くに住んで欲しい」という相談は虫が良過ぎます。当然、難色を示されることは珍しくありません。

 

それはそうでしょう。製造業の現場は大企業、中小企業を問わず、どうしたって”いなか”になってしまうのです。「この近くに住んで」と言われて喜んで応じる人は、まずいないと考えるべきでしょう。実際、日本人だって大抵もっと住みやすい街から通勤しているのです。

 

すると、人材としてはニーズにマッチしているのに、通勤の条件が合わずその人を確保できない、という状況も生まれてきます。もちろん、車通勤にかかるコストの面倒をみることができればその限りではありませんが、自動車を買い与え、保険関係の手続きを済ませてやり、ガソリン代や自動車にかかる税金・保険料も加味した金額で時間給を支払うとなると、利用者側として割安感を得られるかどうかはかなり怪しくなってきます。

 

こうなると、徒歩は難しくとも、自転車あるいは電車・バスなどの公共機関を利用して通える(または、通ってくれる)外国人の中から、ニーズに合った人材を探すしかありません。しかし、そんな人はいないのです。

 

すると結局、地元の派遣会社に登録している日本人を使うしかなく、本書(『ゼロからわかるオフショア開発入門』)第1章で述べたような矛盾を抱え込むことになってしまいます。

 

いかに日本の会社で働けるといっても、外国人エンジニアにしてみれば、条件が合わないのならそこであえて働く理由はありません。彼らは「日本で働きたい」とは強く望んでいても、最初から「特定の会社で働きたい」というふうには思っていないからです。土地にも人にも縁のない状況からのスタートですから、とにかく見ているのは労働条件だけ。そんななかで、win-winの関係を生み出すのは、意外と難しい相談なのです。

 

外国人の派遣人材を活用する選択肢は、たしかに日本人の技術者派遣に比べれば、多少コストを抑えることができます。しかし、日本に招聘している時点で、日本人と同じ光熱費がかかり、インターネットや携帯代がかかり、社会保険が引かれ、住民税もかかる。外国人だからという理由で、派遣費用が日本人の半額になるわけではありません。むしろ毎年金額上昇は日本人以上に必要かも知れず、帰国のリスクもあります(子供の初等教育では、日本の小学校に行かせるべきか、帰国して母国の小学校に行かせるべきか、という問題)。

 

仕事ができるようになって依存度が高くなり、その人がいないと困るという状況になってもなお、はっきりと日本人の技術者派遣よりコストが安く、安定稼働ができれば良いのですが、すべてがそう上手くいくわけではないのです。

技能実習制度の狙いは確かに「人手不足解消」だが…

次に、技能実習生を受け入れ、彼らに現場の下流工程を任せる選択肢の可能性について考えてみましょう。

 

外国人技能実習制度は、厚生労働省によれば、日本が「先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的」として、始まりました(平成28年〔2016〕11月公布、翌年11月施行)。

 

対象職種は、農業、漁業、建設関係、食品製造関係、繊維・衣服関係、機械・金属関係など合計81職種145作業。ここに含まれる仕事であれば、企業は技能実習制度を利用することが可能です。

 

例えば機械・金属関係でみると、鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、仕上げ、機械検査、機械保全、電子機器組み立て、電気機器組み立て、プリント配線板製造の15職種29作業について、技能実習生を受け入れることができます。これらの分野で設計の下流工程や製造現場での機械オペレーションなどに関する作業を技能実習生に与えることができれば、その分社員の負担は軽減できることが期待できるのでは、というわけです。

 

技能実習生の仲介は、営利を目的としない事業協同組合や商工会が監理団体となり、窓口を務めています。企業はそこにコンタクトして、実習生の受け入れを進めていく形となります。

 

技能実習制度は、厚生労働省が謳うとおり「先進国として開発途上国の人づくりに協力する」が大義名分ですが、政権の本音はいうまでもなく、「日本の人手不足を解消したい」です。実習生を受け入れる企業も、考えているのは「当社の製造技術の世界的な普及に貢献したい」ではなく、「とにかく手を動かせる人が欲しい」が、本当のところではないでしょうか。もちろん、うまくいけば結果的には技術で世界貢献ができることにはなりますが…。

 

ただ、本音丸出しで技能実習生をかき集めている企業が、実習生を酷使して問題視される報道も目立っており、企業としての社会的意義は忘れるべきではないでしょう。

 

そこは法的、倫理的に正しく制度を利用するとして、考えたいのは、もし「技術を学びたい」という技能実習生と出会えたならば、現場の負担は本当に解消するのだろうか、という問いです。

開発・設計系の仕事ができる外国人は「高価な人材」

結論からいえば、それはかなり難しいのではないかと思います。技能実習生は、受け入れる企業や仕事内容(厳密には実習内容)が限定された状態で入国するので、特殊な事情を除いて、本人の意思で転職・退職・実習場所を変更することはできません。

 

そんななかで外国人技能実習生の失踪が起こるのは、受け入れ企業の過酷な労働条件・環境であったり、より好待遇の職場を求めたりすることによります。

 

もちろん、期間を超えて国内に滞在し続ける不法在留や、実習以外の仕事をする資格外活動などは入管法違反となるのですが。技能習得による母国への貢献(日本から見れば国際貢献)は彼らにとっても建前で、実際は単なる出稼ぎをしたいという理由が多くみられます。なかには仲介業者に大きな借金を負ってでも来日する場合もあります。

 

一方、日本の製造業のなかでも、安価な労働力を求めるニーズが強いのが実情です。最低賃金にも満たない給与であったり、時間外労働に対して残業代を支払わなかったりする法令違反を行ってでも、安価な労働力を酷使したい日本の企業が彼らの受け皿になっていることは、大きな問題です。

 

ただ、背景には、自分の贅沢のためではなく、家族の生活の助けになりたいという外国人労働者の切実な気持ちがあります(彼らは大抵、少ない給与からかなりの分を母国の家族に仕送りしています)。一方で、極めて安い下請け業務を行わなければ生きていけない日本国内の製造業の置かれた苦しい立場というものもあります。

 

しかし、いずれにせよ技能実習計画を厳正に実行し、労働基準法を遵守し、人権を尊重する、という当たり前のことが守られていないケースは多く、外国人技能実習機構(法務省・厚生労働省管轄)の職員が抜き打ちで検査に行くと、大手企業において法令違反が発覚して新聞沙汰になったりすることがあります。

 

外国人技能実習生の側は、技能実習ビザを使って他社に転職したりはできないし、就労ビザに変更もできません。技能実習ビザによる製造関係の仕事の内容は、前項で挙げた職種(作業)に限定されており、設計や開発系の仕事では使えません。あくまでワーカー、作業者としての仕事に限られます。2019年4月以降新設された「特定技能ビザ」を取得すると、同業種に限って転職はできますが、それでも業種は下記に限られます。

 

特定技能ビザ1号対象業務:(1)建設業(2)造船・舶用工業(3)自動車整備業(4)航空業(5)宿泊業(6)介護業(7)ビルクリーニング業(8)農業(9)漁業(10)飲食料品製造業(11)外食業(12)素形材産業(13)産業機械製造業(14)電気・電子情報関連産業

 

特定技能ビザ2号対象業務:(1)建設業(2)造船・舶用工業

 

つまり、設計・生産管理・IT技術者などの仕事を国内で行わせるならば、技能実習でもなく特定技能でもなく、(工業系・工学部など)大学卒業の技術者として在留資格「技術・人文知識・国際業務ビザ」で招聘しなければならないのです。

 

就労ビザで日本に来ている技術者には、日本人並みもしくはそれ以上の給与待遇を用意する必要があります。となると、当然、製造現場でのマシンオペレーションや加工、組み立て・塗装・溶接・検査などの単純作業をさせることはできません。

 

就労ビザで雇用できないそれらの職種(作業的内容)を、技能実習ビザ・特定技能ビザの人材がカバーしている、というのが実態なのです。

 

技能実習ビザの人材には、許可されていない開発・設計系の仕事をさせることはできません。「研修なら問題ないのでは?」とも思えますが、技能実習の作業的な仕事の合間を縫って短時間の断続的な教育を施したところで、優秀な設計者が育つはずもありません。

 

正しいやり方は、就労ビザを持った外国人技術者を自社の正社員として雇うか、正社員として雇っている会社から派遣してもらうしかないのです。

 

 

吉山 慎二
株式会社アールテクノ 代表取締役

ゼロからわかるオフショア開発入門

ゼロからわかるオフショア開発入門

吉山 慎二

幻冬舎メディアコンサルティング

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