「寝かせたい親」と「寝たくない娘」の小さな攻防
私は、とても現実的です。できること、できないことをはっきりさせます。子育てでも同じでした。子どもは、いろんな可能性を持っていますが、すべてが叶うわけではありません。なぜなら、すべてをやる時間はないからです。1日は24時間。この限られた時間をどう使い、どう過ごすのかはとても大切な生活習慣です。生活の土台を作り、ひいては自立、そして人生の土台となるからです。私は、この時間管理の習慣づけとして、まず睡眠時間を守らせることから始めました。
紗良は赤ちゃんのときからよく眠る子どもでした。決まった時間に寝て、ほぼ決まった時間に目覚める。ルーティーン化した紗良の眠りは、私の心を穏やかにさせました。
幼稚園に上がり、紗良は「寝る時間」があることを知りました。
「紗良、8時よ。あなたは寝る時間よ」
紗良は、素直でした。読みかけていた絵本もパタンと閉じ、「ママ、おやすみなさい」と笑顔を見せてベッドに入りました。ただし、私はしばらく紗良の枕元で、私の耳を貸さなければなりませんでした。小さな手が私の耳を放してくれるまで。
紗良は、小学生になりました。私は、はっきりと紗良に告げました。
「紗良、あなたの就寝時間は、これから毎日夜9時よ。守ってね」
小学生の紗良の生活は規則正しいものでした。3時に帰ると、おやつを食べながらおしゃべりします。4時、自分の部屋に行って宿題をします。6時にお風呂に一緒に入ります。その後に夕食です。8時から9時までは、どうぞ紗良、お好きなように…。しかし、学年が上がるとともに、ベッドに入る時間が遅れ気味になりました。読書のせいです。ベッドに入っても、スタンドをつけて、読み続けることがありました。
「紗良、9時があなたの寝る時間でしょ」
「分かってるわ、ママ」
9時就寝をめぐる小さな攻防は、夜更かしで大失敗をするまで(前回の記事『結果、ハーバード合格!10歳で「夜更かしを許した」深い理由』を参照)続きました。
私がこれほど睡眠時間にこだわったのは、十分な睡眠こそが健全な心身を作ると考えていたからです。とくに紗良は、睡眠不足が分かりやすく体の不調に表れました。夜更かししそうになると、私は口癖のように言いました。
「あなたは、眠らないとダメなの。眠らないと、頭が回らないわよ」
ところが、高校生になると、紗良は不満を言うようになったのです。
ハーバード合格を実現…母が教えた時間管理術
「ママ、高校生で9時半に寝る子なんていないわ。勉強は忙しいし、やりたい課外活動がいろいろあるの」
私はとても現実的です。
「いえ、あなたが寝るのは9時半。それができないと言うのなら、あなたの効率が悪いか、能力がないか、やりすぎか。この3つのうちのどれかよ。1日は24時間しかないの。帰宅は3時すぎ。寝るのは9時半。残りの6時間をどう使うのか、よく考えなさい」
紗良は、効率が悪いわけではありません。勉強しながらチャットをやったりしません。では、能力が足りない? それなら、仕方ありません(笑)。残るは、やりすぎです。私は、6時間の間にすべきこと、やりたいことを書き出してみたら?とアドバイスしました。
やるべきことは、夕食、入浴、学校の宿題。そうそう、5時から30分はアニメの「ジャスティス・リーグ」を必ず見なければなりません。これだけでも4時間は必要です。他にやりたいことは、ミュージカル、生徒会、弁論クラブ、模擬国連活動、ピアノ。2時間で足りないことは、火を見るよりも明らかです。何かを選んで、何かを捨てなければなりません。
その頃、紗良はアメリカへの大学進学を考え始めていました。それには、高校時代の活動実績が評価対象になります。紗良は、私に似て現実的でした。ミュージカルは、紗良にとっては捨てがたい活動でした。しかし、どう考えても主役を演じるのは難しそう。それでは、評価してもらえません。そこで、紗良は、自分の問題意識やスキルから見て、模擬国連活動や弁論クラブの方がいい。「合格に有利」と判断したのです。紗良の6時間の使い方は、これで決まりました。
いまニューヨークで働いている紗良は、仕事に忙殺される日々を送っています。でも、残業はしないのだそうです。その理由を問われると、私には、8時間の睡眠時間が必要だから、眠らないとパフォーマンスが下がるから、と説明しているそうです(笑)。
薄井 シンシア
大手飲料メーカーにて東京2020オリンピックホスピタリティの仕事に従事
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