不正アクセス、企業トラブルはもちろん、ストーカーや煽り運転など、現在の日本では誰もが「被害者」になるリスクがあります。身近に潜む犯罪から身を守るスキームを、警察OBの危機管理コンサルタントが伝授します。※本連載は『新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか』(幻冬舎MC)から一部を抜粋したものです。

「日本は治安がいい」という一般的なイメージは誤解

日本は治安が「悪い」国である――。こう言われたとしても、信じる人はほとんどいないでしょう。

 

「日本の犯罪件数は、平成14年をピークに減少傾向」などとメディアを通じて報道されていることもあって、「日本の治安は年々よくなっている」というイメージが一般に流布しています。しかし、本当にそうなのでしょうか。

 

「ほら、ギョウザを作っている会社の社長が銃で撃たれて死んだ事件があったじゃない。あれ、まだ犯人が捕まっていないんだよね。怖いよね。あんた、刑事だったんだろう。現役に戻って事件を解決してよ」

 

「昨日の深夜、近くのコンビニが強盗に襲われたんだ。この前は裏の家に空き巣が入ったばかりだよ。最近、治安が悪化しているんじゃないか」

 

私の周りでは、このように犯罪に対する不安を口にする人が大勢います。犯罪件数などの数字によって示される事実は、せいぜい「海外と比べれば治安がよい」という程度のことを物語っているに過ぎません。それは、あくまでも相対的評価であり絶対的評価ではないことに注意しなければなりません。

 

そもそも、一般国民が心の底から「日本は安全だ」と思っているのでなければ、治安がよいなどとは到底言えないはずです。そこで、治安の善し悪しについて正しく判断するためには、国民が実際に肌で感じている治安の状況に対する感覚、すなわち「体感治安」の現状について確認することが必要です。

 

平成29年に政府は、この体感治安に関する調査(「治安に関する世論調査」)を行っています。同調査では、18歳以上の日本人3000人に対して、「日本は安全・安心な国か」「犯罪に対する不安」などの治安に関する広範なアンケートが試みられています。

 

以下に挙げたのは、そのうちの「最近の治安に関する認識」という質問項目に対する回答結果をまとめたものです。

 

よくなったと思う         8.1%

どちらかといえばよくなったと思う 27.4%

どちらかといえば悪くなったと思う 48.6%

悪くなったと思う         12.2%

わからない            3.6%

 

ご覧のように、「よくなったと思う」「どちらかといえばよくなったと思う」と答えた人の割合よりも、「どちらかといえば悪くなったと思う」「悪くなったと思う」と回答した人の割合のほうがはるかに大きくなっています。

 

こうした調査結果からは、日本人の多くが「治安が悪化している」「犯罪が増えている」と肌で感じている現実が浮かび上がってきます。

 

このように、「日本は治安がいい」という一般的なイメージは実は誤解であり、「犯罪件数の減少」という表面上の数字に惑わされた〝勘違い〟に基づいたものなのです。

 

表面上の数字に惑わされてはいけない
表面上の数字に惑わされてはいけない

高齢者をターゲットにした、卑劣な犯罪は増える一方

日本人の体感治安が悪化している、すなわち国民の多くが「治安はよくなるどころか悪くなっている」との思いを強めているのは、昨今の深刻な犯罪情勢からすれば無理もない話でしょう。

 

殺人、強盗、強姦などの凶悪犯罪の発生は後を絶たず、しかも子どもや老人そして女性など、いわゆる社会的弱者を対象とした卑劣な犯罪が日常的に起こっているからです。前述の「治安に関する世論調査」でも「不安を感じる犯罪」として、「インターネットを利用した犯罪」や「振り込め詐欺や悪質商法などの詐欺」のように社会的弱者が被害者となることが多い犯罪を少なからぬ人が挙げています(図表1参照)。

 

内閣府「治安に関する世論調査」より
 
[図表1]不安を感じる犯罪 内閣府「治安に関する世論調査」より

 

ことに高齢化社会の進行を背景に、思考、身体に衰えがある高齢者がひったくりや特殊詐欺などの被害者となる事件は大きく増えています。

 

特殊詐欺とは、対面ではなく、電話、ファクス、メールなどを使って不特定の者から金銭などをだましとる詐欺犯罪です。子や孫を装って助けを求め金銭を詐取するいわゆる「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」もその一種になります。

 

[図表2]のグラフが示しているように、特殊詐欺の被害総額は年々増加傾向にあり、手口別の被害額では「オレオレ詐欺」が最も多くなっています。私がかつて勤務していた埼玉県警の管内でも、1000万円近い金銭をだましとられた高齢者が何人もいました。 「被害までには至らなかったが、電話がかかってきた」という未遂のケースも含めると相当な数に及ぶはずです。

 

警察庁のサイトより
[図表2]振り込め詐欺手口別認知件数の推移 警察庁のサイトより

 

特殊詐欺の犯人は個人ではなく組織になっている場合が多く、高齢者を欺くことを目的とした専門的な教育、訓練も受けているため、犯行は極めて迅速に行われます。お金を渡したら最後、被害に遭った金銭を取り戻すことはほとんど不可能でしょう。

 

したがって、「オレオレ詐欺」は被害を未然に防ぐことが何よりも重要になるのですが、残念ながら、現段階では、予防に向けた警察の取り組みが十分に機能しているとは言えない状況です。

 

なお、余談ですが、かつて警察は「振り込め詐欺」に代わる名称を公募したことがあります。その結果として、一時期「母さん助けて詐欺」と呼ばれていたことがあるのですが、一般には定着せずいつの間にか「振り込め詐欺」に戻ってしまいました。今思うと、一体、何のための、誰のための名称変更だったのでしょうか。国民のためだったのか、それとも警察のためだったのか・・・。

 

ちなみに、現在、埼玉県警は痴漢防止のために「チカン抑止シール」なるものを作成しています。ネーミング募集やキャンペーンに予算を割いているにもかかわらず、国民には全く浸透していません。その場しのぎの対策に予算を割くのではなく、先々まで考えた対策をしなければ、いつまでたっても本質的な解決にはならないのではないでしょうか。

最近は「ネット空間」に不安を感じる人が増えている

「治安に関する世論調査」では、「犯罪に対する不安を感じる場所」についてもアンケートが行われています。その結果をまとめたのが図表3です。

 

内閣府「治安に関する世論調査」より
[図表3]犯罪に対して不安を感じる場所 内閣府「治安に関する世論調査」より

 

最近は、繁華街、路上よりも、インターネット空間に不安を感じている人が増えています。他にも、公園、駐車場、駐輪場、駅、電車、バス、飛行機の中…ありとあらゆる場所で犯罪に出会う危険性があることを人々が強く感じていることがわかります。実際、今の日本ではいつ何時、どこで犯罪の被害に遭っても不思議ではありません。

 

あなたは会社員。忘年会の帰り道に繁華街をほろ酔い加減で歩いているとします。

 

「ドンッ」。道で人とすれ違ったときに肩がぶつかる――よくあることです。普通は「すみません!」と一言言えばすむ話です。しかし、相手がたまたま虫の居所が悪く、かっとしやすい人間だったらどうなるでしょう。いきなり「何だ、お前は!」などと殴りかかってくるかもしれません。

 

ことに、ストレスの多い都市部では、いわゆる〝キレやすい〟人が増えています。以前も、東京・町田駅で、スマートフォンを見ながら歩いていた男性が別の男性にぶつかったことが原因となって言い争いとなり、線路に突き落とされるという事件が起こっています。

 

さらに、社会問題化しているストーカー犯罪などは、恋愛感情や好意などのように、人が人に対して自然に抱く感情がこじれて事件化するケースがほとんどであるだけに、誰もがそのトラブルに巻き込まれる可能性があります。なお、「ストーカーの被害者は女性」というイメージがありますが、決してそんなことはありません。最近では、男性が女性につきまとわれる例や、あるいは加害者も被害者も同性という事件も増えています。

 

警視庁ホームページより
[図表4]ストーカー相談件数 警視庁ホームページより

 

このように、誰もが被害者になり得る状況の中で、犯罪トラブルに巻き込まれないようにするためには、国民一人ひとりが強い危機意識を持って日頃から犯罪の予防と対策を心掛ける姿勢が求められているのです。

 

たとえば、路上のトラブルであれば、まず一度、一般的なマナーを見直すことから始めてみるとよいでしょう。並んで歩き道を塞いでいる、ヘッドフォンから大音量の音楽が漏れている、ながらスマホで周りを全く見ていない…。

 

もしかしたらあなたも知らないうちに自身で原因を作ってしまっているかもしれません。一方的に相手が悪いわけではないかもしれません。

 

ストレス時代と呼ばれる現代社会、キレやすい人たちが増えている中、うっかり最後のスイッチを押してしまうのがあなたでないとは限りません。

職務質問されるのは「怪しい」と思われているから

警察官の活動の一つに、「職務質問」があります。この職務質問については、捜査と同様、犯人を逮捕するために行われていると思っている人が多いようです。

 

しかし、職務質問は基本的に犯罪を未然に防ぐために行うものです。犯罪行為が行われる前に警察官が声をかけることによって、犯罪を行おうとしていた者がためらってやめることが期待されているのです。

 

もっとも、職務質問がきっかけとなって、犯罪が発覚することはよくあります。その意味では、職務質問も、後述する捜査の端緒となり得ます。

 

職務質問の対象となるのは、挙動不審な人、つまりは警察官に「どこかおかしい」「怪しい」と思われるような人です。その感覚を具体的に説明するのは難しいですが、たとえば自動車の蛇行運転をしているような人は車を止められて、職務質問を受ける可能性が高いでしょう。

 

また、職務質問を受けたときに、「まともに話をしようとしない」「目を見ようとせず視線をそらす」「必要以上に怒り出す」ようなことがあれば、警察官は、「犯罪に関わっているのではないか」という疑念を強く抱くことになるかもしれません。

 

ところで、職務質問されたことを笑い話にしている人をたまに見かけます。しかし、客観的に見て「どこかがおかしい」「怪しい」と思われているから、職務質問の対象となっているのもまた事実です。決して威張って話すような内容ではありません。

 

余談ですが、私自らも職務質問にあったことがあります。その時はちょうど警備の仕事の帰りで、備品をこれでもかと詰め込んだ車に乗っていた時でした。もしかしたら怪しいと疑われるかも…と思っていましたが、事件現場の近くを通っていたので案の定、警察の目にとまってしまいました。

 

 

佐々木 保博

株式会社SPI 会長

新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか

新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか

佐々木 保博

幻冬舎メディアコンサルティング

ロングセラー書籍、待望の新装改訂版! ストーカー被害、いじめ自殺、家族の失踪・・・犯罪の多様化で、被害者になるリスクが激増しています。そして、困ったときに一般の人が助けを請うことになるのが「警察」。 しかし、…

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