減少する人口、上昇する高齢者比率…様々な課題が日本企業に重くのしかかっています。しかし、これまで重要視されてこなかった「シニア人材」が日本企業を救う鍵となるかもしれません。本記事では、多数のシニア人材を雇用する経営者である筆者が、企業における「シニア人材」の活用について考察します。

若手社員やミドル層と同様に考えてはダメ

シニア人材の活用には多くのメリットがあります。そしてシニア人材のメリットを受けるためにまず知っておくべきなのは、若手社員やミドル層(35~55歳)と同じように考えないことです。

 

私自身、若い頃のように体が動くわけではありませんし、視力も落ち、記憶力も低下しています。それがどのような状態なのかは、実際に自分がシニア世代になってみないと分からないものです。

現役世代とシニア世代の「相互理解」が重要

シニア人材を雇用している企業では、彼らに業務を何度教えても覚えられないのでつい現役世代が怒鳴りつけてしまい、シニア人材がショックを受けて悔し泣きをするという例もあるといいます。

 

シニア側はいい加減な姿勢で仕事に取り組んでいるのではなく、むしろ必死に覚えようとしています。それでも、体の変化でどうしても現役世代と同じようにできない部分があるのです。

 

私は、現役世代がシニア人材のこういう面を知ることは、決してマイナスにならないと思います。核家族化が進み、今は地方でも、高齢者と若者との接点は減っています。高齢者がどのようなことに弱く、どのようなことに強いのかを知ることは、すべての世代にとって必ず役立ちます。親の介護の問題にも直結するでしょう。

 

シニア世代と現役世代が分かりあえるようになれば、とかくギスギスしがちな世の中も、もっと明るく生きやすくなるのではないでしょうか。

 

ここからは、私が感じているシニア人材のメリットについてご紹介します。

積み上げてきた「経験」は、本で身につけた知識に勝る

シニア人材でもっとも強みとなるのは、40年前後仕事を続けてきたなかで得た専門知識と経験です。それには、銀行なら銀行、不動産なら不動産といった、それぞれの業界に特有の慣習なども含まれます。

 

知識だけなら若い人でも勉強して身につけられるかもしれませんが、経験は一朝一夕に積むことができません。長い時間をかけて積み上げてきた経験は、本を読んで身につけた知識よりはるかに勝ります。

 

本やネットでは身につけられない「経験」。 (画像はイメージです/PIXTA)
本やネットでは身につけられない「経験」。
(画像はイメージです/PIXTA)

 

医師や弁護士、パイロットや電車の運転士などが資格を取ったあと、先輩の指導のもとで実習を行うのは、やはり学校の授業だけでは学べないものがあるからです。恋愛や結婚と同じように、実際に経験してみて初めて分かることは多々あります。

 

たとえば、不動産関係でトラブルになるのは、不動産の所有権が複雑だったり、土地の境界があいまい、過去の書類に不備があるなどの問題のあるケースが大半だからです。

 

トラブルといってもまったく同じ状況ということはありませんから、法律や過去の事例に照らしながらケースバイケースで対応することになります。こういった教科書には載っていないような複雑な要素が絡み合った案件や、機転を利かせて柔軟に対処しなければならない事案ほど、シニア人材の豊富な専門知識と経験が活きるのです。

外見にも表れる、ベテランならではの安定感

また、シニア人材のコミュニケーション能力の高さも、武器となる経験の一つです。シニア人材は今までの社会人生活で、さまざまな困難を乗り越えてきたので、トラブルが起きたときの対応に長けています。

 

例えば取引先からクレームがあったとき、今の若い世代はメールや電話で済ませてしまいがちですが、シニア人材は、とにかく先方に飛んでいって謝罪すると思います。そして、取引先の言い分を聞きながら、うまく落としどころを見つけるのです。

 

これは人生経験によって培われていくものなので、若い社員がすぐに身につけられるスキルではありません。若い社員はシニア人材と一緒に仕事をすることで、多くのことを学ぶことができます。学べることの量、質は同世代の社員と仕事をするのとは比べものにならないはずです。

 

そのほかに、経験豊富なスタッフがいることで顧客に安心感を与え、信頼を得やすいというメリットもあります。

 

若手社員のフレッシュさや初々しさは、裏を返せば、頼りなさや不安な印象ということでもあります。その点、ベテランならではの安定感は、外見にも表れます。ベテランがいるだけで相手の対応が変わってくるというのは、大きなメリットです。

シニア人材の人脈から新たな事業を展開

当社では、さまざまな業界で活躍していた人が集まってきています。

 

外務省にいた人もいれば、メガバンクや商社にいた人も、デベロッパーや化粧品会社にいた人もいます。また、それぞれ海外で勤務していたなど経歴は本当に多彩です。

 

それだけの経験があれば、当然さまざまなところにネットワークを持っています。当社は元々企業年金の資産運用、財政運営のコンサルティングを専門とする会社として設立したのですが、社員の経験やネットワークを活かしてきた結果、気がつけばさまざまな事業を展開するようになっていました。

 

企業の海外進出をサポートする事業、不動産売買や賃貸管理のコンサルティング、プライベートバンキングのコンサルティングなどは、社員のそれまでのネットワークを活かして立ち上げた事業です。

 

例えば営業一筋だったシニア人材は、さまざまな取引先との太いパイプを持っているでしょうし、同業他社とのネットワークもあります。

 

そういった人脈を活かしてもらえれば、自社にとっても財産となります。

「年金に支障をきたさない範囲」の給料を望むケースも

シニア人材は若手社員やミドル層を雇うより、人件費を抑えられます。定年前は給与水準が高かった人でも、年金の支給を受けるためには収入を抑えなくてはなりません。そのため、企業は人件費にかかるコストを安く抑えることができるのです。

 

当社の社員から、「私は、仕事をたくさんしたいのですが、給料はこんなにいりません」と言われたことがあります。

 

その理由は、「わたしは年金をもらっているので、給料が高額になってもらえなくなったら困るのです」とのことでした。奥さんも年金をもらっているため、年金に支障をきたさない範囲の給料を望んでいるのです。これは、人件費を抑えたい企業にとってはありがたい話です。

 

また、シニア人材を積極的に雇用している企業には国から助成金が支払われます。

 

このような面から費用対効果を考えた場合に、優秀なシニア人材は非常にコストパフォーマンスがいいといえます。会社としてはコストを抑えて質の高い仕事をしてもらいながら、利益を上げやすくなります。これもシニア人材の強みです。

 

企業のポリシーとして、シニア人材を多く採用しているだけでなく、それによって業績を上げていることを広く発信することで会社のイメージがアップします。そうすると、さらにいい人材が集まるという好循環が生まれます。シニア人材の強みを味方につけることが、企業の強みにもなるのです。

本連載は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

シニア人材という希望

シニア人材という希望

中原 千明

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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