シニア人材が求めるのは「社会貢献」の実感
シニア人材が仕事をするうえで重視することは「やりがい」、そして「満足感」です。定年後も仕事を続けるといっても生活費をまかなうためではなく、日々の生活や人生を充実させるために働くという人は、報酬にはこだわらない方が大半です。
人はやはり社会との接点がないと、自分の存在価値が分からなくなるのかもしれません。そういう人にとっては、社会から求められている、自分も役に立っているというように社会貢献の実感が報酬よりも必要なのです。
もちろん、シニア世代の人材であれば誰でもいいというわけではありませんが、長年まじめに仕事に取り組んできた人で、人柄が良ければ年齢は関係ありません。誰でも社会に求められる人材になり得ます。
日本の多くの男性は仕事が好きです。働くことに喜びや満足感を感じるのは、まじめで働き者であることが一つの美徳とされる日本人ならではの感覚ですが、仕事以上に満足感を与えてくれるものはほかにはないでしょう。
学ぶ意欲のある人材を、抑え目な報酬で活用できる
当社には、仕事を始めた当初は消極的だったのに、今は仕事が面白くて仕方がないとバリバリ働いている社員が何人もいます。
大手銀行の支店長を経験している社員は、もともと社会保険労務士の資格を持っていたので、人事関係の仕事を任せることにしました。銀行の場合は大企業ですから、悪い言い方をすれば歯車の一つとして仕事をしているような状況でした。
だから現役時代はどうしても、上からの指示を待ったり、本部の意見を聞いたりしなければなりません。頭取でも株主に遠慮するくらいですから、一社員に任される裁量はごくわずかです。
ところが、当社のような中小企業になると、人事関係の仕事のほぼ全部を自分でこなさなくてはならなくなります。自分で判断しなければならない部分が多くなったため、「まだまだ勉強をしないと」と、自ら講習会に出席したりセミナーを受けにいっています。
社労士の仕事は法改正などによって細かい部分が年を追って変わるため、いつも情報をアップデートしておく必要があります。そうやって自分を磨きつつ、仕事に取り組んでいる姿を見ると、人は何歳になっても学ぶ意欲があるものなのだと実感します。
彼の場合、当然責任は重くなりますが、その分、充実感もあるのでしょう。それだけの仕事をしてくれる人材を通常より抑え目の報酬で雇えることは、企業にとってもありがたい話です。
シニアには「過去の失敗」を活かしている人が多い
私がこれまで採用してきたシニア人材は、それぞれに多くの成功、失敗を経験しています。
私はそうした体験をすべて聞いたわけではありませんが、一緒に仕事をするなかで「前にこういう失敗があったから」という話を聞くと、その一端を垣間見ることができます。よく「若いうちの苦労は買ってでもしろ」と言われますが、その真価が発揮されるのはシニア世代になってからなのかもしれません。
シニア世代になると、成功ばかりしてきた人というのは少なく、失敗を経験している人のほうが圧倒的です。それを乗り越えてきた人たちですから、やはり懐が深いというか、過去に失敗したこともポジティブに受け止めて今に活かしている人が多いのです。
失敗の経験は人を大きく成長させます。アメリカでは、失敗経験が多い起業家に投資が集まると聞きます。それほど失敗の経験というのは貴重なのです。
シニア人材を採用すれば、ほかの会社がすでに成長させてくれた人材に働いてもらえるわけですから、本来なら高給で優遇しても損はないくらいです。
「経験」はシニア人材の何物にも代えがたい財産
当社では、基本的に一人一人が自分の担当部門の仕事をするのですが、情報の共有もしているので「私、前にちょっと失敗したので、こういうことに気をつけたほうがいいですよ」など、お互いにアドバイスをしながら進めているケースが散見されます。若い社員だと経験の量が少ないのと、やはりプライドもありますから、自分の失敗をそこまでポジティブにとらえられないでしょう。
もちろん、成功した経験を活かして今の仕事に反映させていることも数多くあります。まさに経験はシニア人材の何物にも代えがたい財産なのです。
年の功、老成というとネガティブに受け取られがちですが、ポジティブに解釈すればシニアの強みの一つといえるのです。