「都心三区の住民は、どこに引越した?」をみていくと
転居が活発だった2010年代前半。どのような移動が行われたのかをみていきましょう。各区の転入がどこの区からだったのかをみていくと、すべての区で共通しているのが、隣接区からの流入が多いということ。
転出・転居は大きく、単なる住み替えか、結婚や就職、転職など、ライフスタイルの変化が伴うものがあります。後者であれば、新しい生活に便利なエリアを選びますが、単なる住み替えの場合、勤務先や通学先はそのままというケースが多いので、利便性が向上しない限りは現状に近いエリアで転居先を探すでしょう。
隣接区からの流入が多かったということは、2010年代前半は、ライフスタイルの変化に伴う移動ではなく、住み替え欲による移動が多かったと考えられます。
そのなかで注目したいのは、いわゆる都心三区、千代田区、中央区、港区の動向です。これら三区に共通するのは、東京23区のなかでも特別だということ。地価は高く、それにより家賃も23区のなかで特別高く、ゆえに、住民の所得も多い。つまりお金持ちが多く住むエリアだということです。
この三区の動向をみていくと、千代田区と中央区は似たような傾向を示し、すべての区で転入元の上位を占めます。最もランクの低い「足立区」と「葛飾区」においても、上位8位までに顔をみせます。この二区の住民は、23区満遍なく転居していったということがわかります。
一方、港区は明らかに偏りがあります。前出二区はすべての区で転入元上位グループ(~11位)に名前があがっているのに対し、港区は下位グループ(12位~)に名前が散見されます。転入元の下位グループに登場するのは、「中野区」「豊島区」12位、「杉並区」「荒川区」13位、「北区」「練馬区」15位、「江戸川区」16位、「板橋区」17位、「葛飾区」18位、そして「足立区」に限っては最下位の22位。千代田区や中央区はどの区でも転入元上位グループに入るのに対し、港区は10区で転入元下位グループに属します。
さらに転入元下位となる区は、23区東部~北部~北西部にあたる区で、特に順位の低い区は、東京のなかでも下町のエリア。「ゼロメートル地帯であるため、大雨の際に水害が心配」とか、「地盤が軟弱だから、地震に弱い」などと、何かと災害リスクから避ける声が聞かれる場所です。千代田区や中央区の住民よりも、港区の住民のほうがそのあたりをセンシティブに捉える傾向にあるといえます。
なぜ港区だけがこのような結果になるのでしょうか――。
千代田区であれば神田、中央区であれば日本橋と、生粋の江戸っ子が住む街も多く、下町に対しての抵抗感が港区よりも低いから…という可能性はあります。また、港区はヒルズ族に代表される上昇志向が強い人が多く、居住地に対してイメージを重視する傾向にあるのかもしれません。
さまざまな推測が成り立ちますが、都心三区と一括りにされがちな千代田区、中央区、港区には、住民に明確な志向の違いが存在するということは確かです。