ところが、父親が80歳近くなって入退院を繰り返すようになってからは、まとまった預金があると相続税で持っていかれることが心配になりはじめました。父親名義の預金をそのままにしておいたのでは、多額の相続税を払うことになると考えた三田さんは、そのほとんどを母親と三田さん名義の口座に移し替え、一部は引き出しタンス預金として家に置いておきました。
その後、高齢の父親は容体が悪化して入院。ほどなくして亡くなりました。その後、相続手続きの準備のために、本を購入するなどして相続税額の計算をしてみましたが、果たして自分の計算が正しいのか、そもそも下ろした預金は大丈夫なのか、さまざまな不安が押し寄せてきました。
三田さんには相談する相手もなく、堅実な父親は毎年の確定申告も自ら行っていたため、親しい税理士もいません。そこで、手元にあった書籍を見て、筆者のもとに相談に来られたのでした。
三田さんが来られたときは、申告期限はあと1ヵ月半に迫っており、ほとんど余裕がありませんでした。そこで筆者は、その場で委任の決意をしてもらい、すぐに作業を進めることにしました。
事前に下ろした父親の預金は「数千万円」
聞いてみると、三田さんが事前に下ろした父親の預金は数千万円にもなるとのこと。相続税を払いたくない気持は十分わかりますが、現在では預金から調査の対象となるため、家族名義の預金は相続財産としていちばんに調査・指摘されるところです。いくら隠したとしても、金融機関を調査されれば、すぐにばれてしまいます。
三田さんには、余分な追徴金や重加算税を払わないためにも、下ろした預金は相続財産として申告するよう説明し、納得してもらいました。生活費や入院費用程度であれば説明はつきますが、今回の場合、下ろした金額が多すぎるため説明がつきません。
「土地の評価」で節税できないか検討
その代わり、土地の評価で節税できないか検討しました。もとの自宅は裏山が斜面になっており、不整形でもあるので、不整形地の計算をするのと、全面道路の幅員が4m未満であることからセットバック分を減額しました。
また、現在の自宅の土地は200坪程度あり、半分は自宅、半分は貸し駐車場ですので、それも分けて申告をして減額するようにしました。
相続人のうち、妹は嫁いでいるので別世帯ですが、三田さんと母親は同居している同一世帯です。そこで、妹が相続したいという土地以外は三田さんと母親で割り振ればいいので、母親の相続対策ができるようにと、貸し駐車場を中心に相続してもらうようにしました。
自宅は三田さんが相続し、小規模宅地の特例は三田さんが受けるようにしました。この結論を引き出すまでには、どの配分がいいかじっくり検討し、何度も試算を重ねました。