順調に人生を歩んでいる姉と、躓きがちな妹。母親も高齢となり、そろそろ相続の心配が出てきましたが、姉妹の仲は円満とはいいがたく、母親は頭を抱えています。将来の相続トラブルは必至であり、いまからとれる対策を模索している状態です。どのような事前準備をすべきなのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
話し合いができない状態なら「遺言書」は不可欠
妹の状態を考え、いまからできることをしておきたいというのがHさんの相談内容でした。話を聞く限りでは、双方が冷静な話し合いができるとは思えませんでした。
こういった局面では、母親の遺言書が必須となります。母親の相続時には、妹の体調は回復しているかもしれませんが、姉に対する妬みは深く、すぐに落ち着くとは考えにくい状況です。協議をしなくてはいけない場において、話がまとまらないばかりか、長年の恨みごとを爆発させることにもなりかねません。
そのため、筆者からは母親の遺言書は必須である旨アドバイスしました。
「ほどよく分ける」ことも必要
妹は40代後半で、相続したあとの生活もまだまだ長いと思われます。そのため、財産は「ほどよく分ける」ことが必要になります。すべて自分で引き継ぐつもりのHさんですが、まずはいったんHさんが相続して不動産を処分したあとは、等分くらいの割合で分けることが妥当だとアドバイスしました。ここでバランスを欠いてしまうと、さらに妬みを募らせる原因となりかねません。
遺言書を作っておけば、相続時に協議することなく、母親の意思として財産を渡せる、遺言執行者を指定しておくことで速やかな手続きができる、といったメリットがあります。
すでに感情的な対立がある場合、相手を説得するのは大変であり、円満な話し合いは望めません。そのような事態にならないよう、まずは母親に、バランスを保った遺言書を作成してもらうことが重要です。
Hさんは、母親の年代はまだ遺言書に対するハードルが高く、かなり抵抗感があるようだと心配そうでしたが、筆者からは「妹さんを説得するより、母親を説得するほうがはるかに楽だと思います」と、アドバイスしました。
Hさんは、早速母親を説得してみます、といって事務所をあとにされました。
たとえ血を分けた親族でも、積年の不満によって話し合いができないくらい関係がこじれているといったケースは珍しくありません。ですが、相続人の意思としての遺言書があれば、相続発生後も、揉めることなくスムーズな対処が可能となるのです。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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