「そうですね、こちらもよくあることなのですが…」
「そうですね、こちらもよくあることなのですが、『名義預金』と見なされないように工夫することも大切です」
「何ですか、その『名義預金』というのは?」
「どの家庭でも結構ありますが、名義は子供や妻の名前になっているものの実際に管理しているのは親や夫という預金です。たとえば亀山さんの家に、名義は次夫さんですが預金通帳やキャッシュカード、印鑑をすべて源太郎さんが管理している銀行口座があるとします。そこに毎年110万円を入れて暦年贈与の形をとったとしても、税務上は次夫さんのものではなく源太郎さんの財産と見なされ、相続発生時には課税対象となるのです」
「なるほど、親が管理しているのであれば、名義人のものと見なされないのはわかります」
「さらにもう一つ気をつけていただきたいのが、相続開始の3年以内に行われた贈与は相続財産に含まれてしまうということです。これは余命わずかになった時に、あわてて贈与して課税を逃れることを防ぐために設けられている制度です」
「何だかいろいろと難しいのですね」心細げに美千子が呟く。
「それでは、三つある注意点をまとめてみますね」
由井がホワイトボードに書き始めた。
(1) お金のやりとりが贈与であるという証拠を残すこと。そのために『贈与契約書』を作成し、銀行振り込みによって、通帳に証拠をハッキリ残す
(2) 贈与後は、贈与を受けた子供に預金通帳や印鑑を渡し、贈与した親がその管理に関与しないこと。贈与税も、贈与を受けた子供が納めるようにする
(3) 相続開始、3年以内の贈与は無効になってしまうので、大きな財産を贈与したいなら、なるべく早くに取りかかり、毎年贈与を続けること
「こんな感じです」
「なるほど。よくわかりました」
【つづく】