金に困った子持ちの夫婦。両親に驚きの提案を…
「雑誌広告などをもう一度積極的に打って、来たお客さんの中からリピーターを確保していこうと思っているのですが」
次夫の言葉に奥村がうなずく。「よい策だと思います」
「でも費用はどうするの?」彩華が訊ねた。「うちにあるのはもう和紀の教育資金だけよ」
「それを使うしかないだろう。大丈夫。高校受験まで1年ある。その間に取り戻せばいい」
「絶対ダメ。今ある貯金だって大学進学を考えたら足りないんだから」
「やはりお父様からの生前贈与をもう少し積極的にプッシュするのが一番かもしれません。相続対策を考えておられるのなら、節税につながる生前贈与をお願いするにはよいタイミングだと思います」
奥村が言うと彩華が勢いよく首を縦に振った。
「だいたいお義父さんはお兄さんとお姉さんばかり優遇しているじゃない」
そうかもしれないと次夫も思う。兄弟姉妹の中で、姉が一番両親から優遇されてきた。米国留学では、なんだかんだで800万円ほど使ったはずだ。さらにネイルサロンの改装資金と道路に出している看板代だけでも300万円弱といったところか。
兄の一太郎はと言えば、車を買ってもらったことがある。値段は、次夫の開業資金と同じ程度か。ただ、開業資金はあくまで「借りたもの」というつもりでいる。もらいきりの車とはわけが違う。
兄弟の相続は公平が原則のはずだ。相続で一番多くもらうべきは自分だろう。いや、とりあえずは生前贈与が必要なのだが。
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やってきた次夫と彩華の深刻な顔色を見て、源太郎は胸の内でため息をついた。
「それで教育資金の贈与が欲しいと?」
次夫が提案したのは1500万円という大きな額の贈与だった。教育資金の贈与については非課税枠があると顧問税理士に教えられてきたらしい。
いかにも自分勝手な頼み事に、源太郎の横で美千子も顔をしかめた。
「生前贈与を利用すると相続財産を減らすことができるので、相続税の節税にもつながるんですよ、お義父さん」彩華が言う。
「でも贈与税がかかるんだろう?」