「あなたたちの望みはわかった」父母の向かった先は…
「いろいろな特例を利用すれば、贈与税の課税を避けたり抑えたりもできるので、結果的にはみんなにとってお得な相続にできるんです。その一つがこの教育資金の孫への贈与です」
孫の和紀はずいぶん成績がいいらしい。まだ中学2年生だが、有名私立高校が狙えると学校からはお墨付きをもらっているという。彩華と次夫の厚かましさはさておき、本当に相続税対策になるなら教育資金の贈与を考えてもいい。
「あなたたちの望みはわかったわ」
そんな源太郎の思いを読み取ったのか、横から美千子が言った。
「ただ、まだいろいろなことを考えている最中なの。決めたらまた連絡するわね」
■生前贈与と暦年贈与はどちらが得か
「たびたびお時間をとってすみません」
恐縮する源太郎に由井はくったくのない笑顔を見せた。「いえいえ、真剣に取り組んでおられるがゆえのことですから、頼りにしていただけて、私もやりがいがあります」
「今度は次男の次夫のことでして」
「会社をやっておられる方ですね」
「はい。その次夫が、『生前贈与』を先の相続より今すぐと言うのです。どうやら会社がうまくいっていないようで」源太郎は嘆いた。
「たしかに生前贈与は工夫すれば、節税効果も高い相続対策の大きな柱です。いろいろな工夫があるのですが、たとえば『暦年贈与』の非課税枠を利用する方法があります」
「暦年贈与……ですか?」
「はい。贈与には年間110万円という非課税枠があるので、これを利用して何年かにわたり毎年贈与を続けるのです」
「なるほど。たとえば20年間贈与を続けたら2200万円も非課税で贈与できるわけですね」
「はい。長年にわたって贈与を続けると、大きな額を非課税で子供などに承継できるため、非常に節税効果の高い相続税対策として知られています。たとえば子供2人、孫4人がいて、相続財産が10億円あるような資産家の方が、何の対策も講じないで相続を重ねると、孫の代では5億1523万円しか残りません。贈与税を支払ってでも20年間全員に毎年5000万円を贈与すると、8億3320万円残せるのです」
「そんなに……じゃあ、うちでもやろうかな」