新宿ナビタスクリニック院長・濱木珠恵氏は、新型コロナウイルス禍で「日本医療の男女格差」を改めて痛感したと語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

コロナ制圧に比較的成功している国の、「ある共通点」

医療や保健衛生の分野の男女格差について、WHOからも興味深い報告が出ている。この報告によると、医療や保健衛生の業務に携わる労働力の70%が女性であるのに、管理職についている女性は半数以下であり、性差は人種や階級の差と同様に労働者の不利益の原因となっている。

 

また、国際保健はほとんど男性主導であり、国際保健機関の長の69%は男性、委員会の議長の80%も男性だと指摘している。この報告では、社会全体の保健衛生を向上させていくには、もっと女性を登用しリーダシップをとらせることが必要だとしている。社会を構成している半数は女性であり、社会に働きかけるためには、もっと女性が活躍できたほうが有効だということだ。

 

こんな視点で世界をみてみると、新型コロナウイルスの制圧に比較的成功している国は、台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、ドイツのアンゲラ・メルケル首相など、女性リーダーが多い。女性が優秀などという短絡的なことをいうつもりはない。しかし、従来型の男性リーダーではなく女性を政治のトップに選ぶことができる国民性は、近年では経験したことのないパンデミックに対しても国家として柔軟に対応していけるリベラルな社会を作っているのかもしれない。

 

たとえば、蔡英文総統がいる台湾だ。台湾政府が打ち出したマスク対策は、台湾が柔軟に政策を動かしていることの一例だろう。マスクを政府が買い上げ、身分を照合して市民に実名申告制で販売し、マスクの在庫公開システムも迅速に導入した。デジタル担当大臣の唐鳳(オードリー・タン)氏はその象徴的存在だったが、彼女はトランスジェンダーであり、若干35歳で蔡英文政権の行政院に入閣している。彼女の高い能力があってのことだが、日本に置き換えて考えたとき、実力のある若手が同じように重用されることなど、まったく想像できない。

 

また、台湾の新型コロナウイルス政府対策本部は、毎日、定例の記者会見を時間無制限で行っている。4月13日の記者会見では、中央疫病流行指揮センターの指揮官(対策本部長)・陳時中氏をはじめとする男性幹部5人全員がピンク色のマスクを着用していた。「ピンク色のマスクだと、からかわれるから付けたくない」という小学生の男の子に対し「命を守るのに色は関係ない。ピンクはいい色だ」と伝えるためだ。多くの企業や個人がSNSのプロフィール画像をピンク色にするなどの社会現象にもなった。こうした一体感も台湾が新型コロナウイルスを制圧できている要因だろう。

 

ニュージーランドのアーダーン首相は、ロックダウンの期間中に自宅から国民に対して動画メッセージを送り続けていたことでも有名だが、ニュージーランドの対策本部の状況も日本とは対象的だ。

 

専門家グループの名簿を探して、保健省のサイトを閲覧した。幹部役員(Executive Leadership Team)の項には、男性5人、女性9人の名前があがっている。所長のBloomfieldは男性であるが、副所長をはじめとした幹部の過半数が女性だったことに少し驚いた。

 

さらに、COVID-19諮問委員会(COVID-19 Technical Advisory Group)は、14人中6人が女性だった。それぞれが感染症や公衆衛生、微生物学などの専門家である。

 

首相が女性だからこうなったのではない。このような組織づくりをする国だから、アーダーン首相のような女性首相が出てくるのであり、伝統的に男性リーダーを選んできた国々とは異なった対応ができているように思う。

 

イギリスは第一波で多くの感染者と死者を出したが、第一波対応の反省から、Public Health Englandを解体し、新たにNational Institute for Health Protectionを設置、初代所長にダイド・ハーディング氏という女性が就任することになった。

 

今でこそ首相は男性が続いているが、そもそもマーガレット・サッチャーが10年以上も女性首相を務めあげた国だ。先の首席医務官もサリー・デイビスという女性であった。今後のイギリスの新型コロナウイルス対策がどう変わっていくか見物だ。

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