「お義姉さんがかわいそうです」義妹の思惑は…
「ええ。うちみたいな家でも、相続税法が改正されてからは課税される可能性があると聞いたもので」
「一部上場の食品メーカーに勤務されていたんですよね。この広さの土地をお持ちなら、おそらくある程度の工夫をしないと課税されることになると思います」
「だから家を私に相続させてくれないかと思って」
思い切って、一美は言葉を挟んだ。
「その方が節税になるらしいのよ」
「実はそうなのです」奥村がうなずく。
「子供の代に財産を渡すのに、ご主人の相続、奥様の相続と二度にわたって課税されるより、いきなり娘さんが相続する方が税務上もお得なんですよ」
「でも妻には大きな非課税枠がありますが、娘にはないのでしょう? それで節税になるのですか?」
「はい。住まいの相続には、『小規模宅地等の特例』と呼ばれるものがあります。簡単に言えば、一緒に住んでいる配偶者や子供、あるいは持ち家がない子供に住まいを相続させる場合には、土地の評価額が8割引になるというものです。一般的なサラリーマン家庭では資産の中で土地が大きな割合を占めているものです。これを8割引にできれば、亀山さんの相続財産も非課税枠内におさまると思います」
横で美千子が首をかしげた。
「でもそういう特例は、他の相続人が納得しないとダメなんですよね。一美にだけ大きな財産を相続させたら、次夫や一太郎に不公平です」
すかさず彩華が口を挟んだ。
「うちは大丈夫です。同居しているお義姉さんが継ぐのが一番だと思いますから」
前日に相談していたので一美は知っていた。次夫の事業がうまくいっていないため、彩華は先々の相続よりも直近の生前贈与が欲しいのだ。彼女と一美の間には、「家の相続で味方するなら、後押しする」という約束ができていた。
「でも一太郎が納得しないと思うわ」美千子が首を横に振った。
「私はお父さん、お母さんの世話をしてきたのよ。家ぐらいもらう権利があるわ」たまらず一美は声を尖らせた。
「そうですよ。お義姉さんがかわいそうです」
同調する彩華を抑えて源太郎が穏やかに言った。
「一美の考えはわかった。ただいろいろなことを考えなければならないので、結論はもう少し待ってくれ」