産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、男性のサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。産婦人科院長を務める著者が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

「照れくさい」はただの甘え…想いは伝えてこそ

そうはいっても「そんなのうれしいに決まっているけど、口にすると安っぽいじゃん」「感謝してないわけがない。そんなこと夫婦なのだから言わなくても分かるだろう……」と思ってしまうのが男という生き物。

 

しかし私は、妻の言葉でそれは勘違いであることを思い知りました。実は、出産の瞬間こそ夫婦の絆を強くするチャンスなのです。このとき「こんな大変な思いをしてまで、僕たち二人の子を産んでくれてありがとう」と声をかけることができれば、きっと妻も「この人は父親として、これから私たち家族を守ってくれる」と安心できるはず。また、言葉にすることで自分自身を「これから父親として頑張っていこう!」と奮い立たせることもできるのです。

 

以前オランダ人夫妻の出産に立ち会った際には、奥さんの横についていたご主人が必死に声をかけ、産まれた瞬間は「うれしい!」という気持ちを全力で伝えている姿が印象的でした。妻である女性は非常に心強く感じたことでしょう。日本人男性に足りないのは、こうした「気持ちの伝え方」なのだと思います。父親としての第一歩を踏み出すためにも、少し恥ずかしいかもしれませんが、ぜひ素直な言葉をかけてみてください。

なんでもかんでもホルモンのせいにしない

東野純彦著『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)
東野純彦著『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)

「産後の恨みは一生忘れない」という言葉があるように、オキシトシンは記憶と強く結びつくということも判明しています。

 

例えば、熟年離婚した 60 代の女性が「元夫は育児にはまったくノータッチだったから、子どもが自立したらすぐにでも離婚しようと思っていた」とか、産後の母親が「まだ生後1カ月も経っていない子どもがいるのに、夫が飲み会で明け方に帰ってきたことはずっと恨んでいる」といった話を聞いたことがある人も少なくないと思います。

 

決して女性が恨みがましい生き物であるというわけではありません。これもまたホルモンがそうさせているのです。しかし、ここで「産後の母親に起きるホルモンの変化が原因なら、もうどうしようもないのでは?」と諦めるのはどうかやめてほしいのです。

 

オキシトシンによって恨みを忘れないということは、良い行いも忘れずにいると考えられます。つまり産後に夫が優しくしてくれたとか、うれしい言葉をかけてくれたとか、そういった記憶もずっと残るのです。

 

だから「妻がちょっと攻撃的になったのはホルモンバランスのせいだから、とりあえずほうっておこう」ではなく、「どうすれば精神的に安心させることができるかな」と夫の視点で考えてみてください。具体的にアドバイスするならば、妻の話をゆっくりと聞いてあげることです。

 

何度も言いますが、産後の母親は常に孤独のなかにいます。まだしゃべれない赤ちゃんと1日中一緒にいて「今日は誰とも会話をしなかった」という人も多いのです。だからこそ夫が話し相手になってくれるだけでも、ずいぶんと心は落ち着きます。

 

そのときに重要なのは、問題を解決しようとすることではなく、ただ「うんうん」と気持ちに寄り添い話を聞いてあげること。すると「この人は私のことをちゃんと見てくれている」と安心感を抱くことができます。オキシトシンによって敵認定されてしまったとしても、たちまち「味方」に切り替わることは十分にあり得るのです。

 

 

 

東野 純彦

東野産婦人科院長

知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

東野 純彦

幻冬舎MC

知らなかったではすまされない「産後クライシス」―― 産後の妻の変化、訪れる最大の離婚危機…… カギを握るのは夫の行動!? 女性の生涯に寄り添ってきた産婦人科医が伝授する夫婦円満の秘訣とは

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