産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、男性のサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。産婦人科院長を務める著者が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

時代錯誤な母親像…女性はみんな生きづらかった

高度経済成長期前後は、「外で汗水をたらして生活費を稼ぐことで家を守る人」というのが理想の父親像でした。そんな父親は「一家の大黒柱」と呼ばれ、家族のなかで最も力のあるリーダーとされてきたのです。昭和のホームドラマを見ても、父親だけみんなと違うおかずが用意されていたり、一番風呂は必ず父親だという決まりがあったり、家族の誰もが父親のいうことには絶対服従だったりというシーンがよく描かれています。

 

一方で、当時の母親像として定着していたのは「父親に従い、家事も育児もすべてこなす人」というもの。「男子厨房に入るべからず」といわれていたほど、家事は女性の仕事だったのです。確かに、周りの若い女性に「昭和の母親のイメージは?」と尋ねると「倹約家」「常に3歩下がって夫の後ろを歩いている」「真面目でおとなしい」「自分を犠牲にして家族を守るイメージ」といった声が上がります。昔は大家族で近所付き合いも盛んだったため、父親が家事を手伝わずとも母親はなんとかなっていたという面もあるでしょう。

 

しかし、女性の社会進出が盛んになった現代では、そんな母親を探すほうが難しくなってきました。女性も外に出て働くのが当たり前となっているなかで、「理想の母親像」も変化してきているのです。書店に行けば「ママでもおしゃれしたい」とか「働くママの1週間コーディネート」といった高度経済成長期前後では考えられないような特集の雑誌がずらりと並んでいます。

 

きっとこれは「母親」としてではなく、自分のライフスタイルを充実させたいと願う女性が増えている証拠だと私は思います。いまや「自分を犠牲にして家族を守る母親」よりも、家庭のなかだけにとどまらず、自分の意志をしっかり持っている母親のほうが「理想」とされているのです。

 

女性も外で働くことが当たり前となった今、男性も外で働くだけでなく、家事も育児も分担することが求められています。つまり、昭和の父親像と現代の父親像は大きくかけ離れているのです。ところが、男性たちはいまだに「昭和の父親像」にとらわれ、「自分たちの使命は働くことだ」と思い込んでいる人が多い。それはいったいなぜなのでしょうか。

いつまでも「昭和の父親」でいられると思わないで

もちろん、子どもが生まれた時点で肩書は「父親」になります。しかし、世の女性が求めているのは「父親として家事に協力してほしい」「父親として子育てに参加してほしい」といった「行動」の部分なのです。「子どもが生まれたから残業を増やして今まで以上に稼いでくるね」と言われるよりも、「二人の子どもなんだから、家事も育児も分担して助け合っていこう」と言われるほうがうれしいという女性は多くいます。

 

もちろん、家のなかであぐらをかいてふんぞり返り、妻に命令してばかりのいわゆる「昭和の父親像」を貫きたくてやっているわけではない男性がほとんどでしょう。特にこの連載をお読みになった方は「良い父親になりたい」「妻を支えたい」という思いがあるのだと思います。それなのに、なかなか行動に移せないのはなぜか。

 

それは、ロールモデルにする人が昭和の父親しかいないからではないでしょうか。つまりは、現代に即した「父親になるための見本」となるべき姿を知らないのです。これでは、どのように振る舞えば良いのか分からないのも無理はないでしょう。

出産は子どもも妻も命がけで頑張っている

かくいう私も、恥ずかしながら自分の妻から受ける「夫・父親としての評価」はあまり高くはありません。子どもが生まれて数年が経ったとき、妻から突然「生まれた瞬間、どう思った?」と聞かれたことがありました。「元気に生まれてくれてほっとしたよ」と、私は正直な気持ちを答えました。

 

産婦人科医を長年やっていると、さまざまな出産に立ち会います。赤ちゃんに異常が見つかったり、母子ともに危険な状態に陥ったりと、出産の現場は幸せな瞬間ばかりではありません。仮死状態で産まれ、静かなお産になるケースもあります。

 

そのような経験をしているからこそ、元気な産声を上げて問題なく生まれてきてくれたわが子を見て、医師としても父親としても心からほっとしたのが事実です。ところが妻はその言葉を聞いて、大きなため息をついたのでした。「それだけ?私に対する気持ちは一言もないの?」少し怒った様子でこうつぶやいたのです。

 

私はそのとき、ハッとしました。妻は「よく頑張ってくれた。大変だったね」とか「元気な子どもを産んでくれてありがとう。本当にうれしいよ」といった労りの言葉をかけてほしかったのです。

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