母親が公正証書遺言を遺していたにもかかわらず、兄(長男)と妹(長女)が「争族」に発展してしまったケース。放蕩息子だった兄は母の生前、散々迷惑をかけてきたこともあり、遺言には財産の大半を妹に遺すと記されていました。自分の相続分がわずかな現金だけだと知った兄は激怒し、自らの遺留分を確保するため奥の手を使った。 ※本記事は、一般社団法人相続終活専門協会代表理事・江幡吉昭氏の書籍 『プロが教える  相続でモメないための本』(アスコム)より一部を抜粋したものです。

「俺の財産を取り戻す!」はずが…思わぬ事実が判明

小百合さんは遺言執行者として粛々と相続作業を進めましたが、あまりにも理不尽な兄からの恫喝(どうかつ)を何度も受けたため、相続税の申告が終わるころにはすっかり疲れ果てていました。

 

小百合さんはお母さまと同居されていましたが、義弘さんも同じ敷地内に別の家を建てて住んでいるのです。つまり、門は同じですから、普通に生活していれば毎日のように顔を合わせます。

 

そのたびに小百合さんは文句を言い続けられるのですから、たまりません。小百合さんは電話が鳴っただけで「兄からまた罵倒(ばとう)されるのではないか」と恐怖を感じている状態で、一時はストレスで病院に通うほどになっていたのです。

 

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■家庭裁判所に「遺留分減殺請求」(当時)を訴え出た兄

 

「絶対に俺の財産は取り戻す!」

 

義弘さんは遺留分を取り戻すため、家庭裁判所に遺留分減殺請求(当時)を行いました。

 

相続において特定の者(この場合は妹)にだけ有利な遺産分配がなされた場合、法定相続人が本来自分がもらえるはずの最低限の遺産の取り分(遺留分)を確保するための制度があります。それが「遺留分減殺請求」(当時)です。

 

この結果、小百合さんは受け取った相続財産全体の4分の1を現金で兄の義弘さんに支払うことになりました。最初にお母さまの遺言で500万円を受け取っていましたから、その差額が支払われたという形です。

 

しかし、その差額は義弘さんが期待していたような金額ではありませんでした。

 

この家族はいくつものアパートや駐車場を持っているので、近所からは資産家と思われていましたが、実際の資産は決して多くはなかったのです。

 

アパートは築年数が古い上に駅から遠く、抜本的なリフォームを怠っていたため入居率が低く、収益性はほとんどありませんでした。不動産として相応の価値はあるものの、維持費を上回って利益を稼ぎ出せる代物ではなかったのです。

 

また、下手に不動産が多いせいで、相続税も高くなり、義弘さんから遺留分減殺請求(当時)をされたときには、すでに小百合さんの現預金も枯渇した状態でした。

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プロが教える 相続でモメないための本

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江幡 吉昭

アスコム

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