自分で書いた遺言に驚き、遺言内容を変更したことで「争族」が起きてしまったケース。この母親は「長子が跡継ぎ」という昔ながらの考えに基づき、全財産をすべて長男に譲ると宣言し、その内容を自ら遺言に書いていたはずですが、ある事件をきっかけに豹変してしまいました――。 ※本記事は、一般社団法人相続終活専門協会代表理事・江幡吉昭氏の書籍 『プロが教える  相続でモメないための本』(アスコム)より一部を抜粋したものです。

「争うことも考えたけど」長男の下した苦肉の決断は…

■次の世代に争いを持ち越さないため、黙って引いた長男

 

「このいざこざから数年後、母は亡くなりました。私が知らされた新しく作成された遺言の内容は、すべての財産は長女・次男・次女に渡すという内容でした。私としては母の遺言能力や、公正証書遺言の有効性について徹底的に争うことも考えましたが、私は当時、会社の株の過半数を保有しており、かつ、代表取締役として会社の経営自体をコントロールできる立場にはありましたから、自分の子どもたちや孫たちにこの争いを引き継ぐべきではないと考え、遺留分を主張することなく母の相続を終えることにしました」

 

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太一さんは、ため息をつきながらそう話してくれました。太一さんにとって唯一の救いは、お母さまが会社経営から退く際に自社株を金庫株(※)にしてくれたことです。もしもお母さまが株を保有したまま亡くなっていたら、会社も乗っ取られてしまったかもしれません。

 

(※)金庫株自体は一般的によく見られます。しかし、株を売却した人に多額の税金がかかるので税務的にベストという選択ではありません。しかしここでは、その点については触れません。詳しく知りたい方は専門家にご相談ください。

 

高齢になると、その日の体調や天気によって言うことが変わる、ということも少なくありません。そして過去に自分が下した判断をひっくり返したり、いきなり散財したり逆にお金に執着したり……といった行動もたびたび見られます。

 

健康なとき、元気なときの姿を知るからこそ、子どもはそのような親の変化を受け入れづらいものです。しかし、「争族」を避けるには、親が頭も体も元気なうちに遺言を書くことがやはり必要だと思います。

 

ただし、この事例を見てわかるとおり、自筆証書遺言を作成する際には注意が必要です。

 

自分で書いて手元に置いておけば確かに安心かもしれません。しかし、再度読み返して気が変わるということもあれば、認知症が進んで自分が書いた内容さえ忘れてしまうこともあります。遺言の内容をすぐに変更できることは自筆証書遺言のメリットですが、今回のような「争族」が起きるリスクも同時にはらんでいるのです。

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プロが教える 相続でモメないための本

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江幡 吉昭

アスコム

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