毎年販売直後に完売の「お米」、その秘密とは…
安易なネーミングをつけてしまう典型的な例が、米です。ほとんどの米が「富山県産こしひかり」や「兵庫県産きぬひかり」といった具合です。判で押したように「×県産+品種」で表記されていることが多いのです。これでは商品の特徴を表現することも、ましてやお客様の目に留まることもありません。
徳島県で、毎年収穫直後に売り切れてしまうお米があります。そのお米は西地食品の「武士の握飯米」です。
実はこの商品、中身は「徳島県産あきさかり」。
しかし、一見して「普通のお米と何か違う」ということを伝えるインパクトあるデザインになっています。西地食品の吉永昭二さんから依頼を受けたとき、「徳島県産あきさかりという商品名ではおもしろくない」と、いろいろ話し合いました。
吉永さんに聞いたところ、「西地食品はおよそ200年続く歴史ある会社です。その会社が丹精込めてお米を作りました。また、ごく最低限の農薬しか使っておりません。除草剤や殺虫剤も使っていないのです」とのことでした。
これをそのまま「歴史ある会社、こだわり製法、低農薬、殺虫剤不使用」と書くことも考えたのですが、吉永氏によると隣の田んぼも同じ製法だそうなので、西地食品さんオリジナルの強みにはならないと判断しました。
そこで目をつけたのが、吉永氏の「武士が好き」という趣味です。小さいころから時代劇が大好きだった吉永氏がイメージしたのは、武士が藁で編んだ入れ物に握り飯3、4個を入れて、肩から下げて歩いている風景。この握り飯がとてもおいしそうだということで、「武士の握飯米」というネーミングになりました。
パッケージには、武士に扮した吉永氏のイラストをあしらいました。そして歴史観も伝えるべく「文政六年創園、時を超える想い」と表記します。「低農薬」「殺虫剤不使用」とは書かず、「自然を愛する武士が草ぼうぼう、虫だらけの田んぼで育てた、虫から守り抜いたお米。」としました。
まずネーミングにこだわり、そこから派生するデザインや文字で世界観をもたせることで、一見して明らかにほかの米とは違うパッケージの商品が生まれました。その結果、毎年即完売という大人気の米になっています。
松浦 陽司
株式会社パッケージ松浦 代表取締役社長
※本連載では、世界でただ一人の“パッケージマーケッター”松浦 陽司氏の著書『売上がグングン伸びるパッケージ戦略 赤字商品が大ヒット商品に化ける!!』から一部を抜粋して、売れるパッケージの秘密について解説します。