金融・財政政策をフル活用した各国の「大型経済政策」
現在、世界の経済環境は日々悪化しているが、各国政府と中央銀行は金融政策と財政政策で対応しようとしている。この「新型コロナウイルス経済対策」のスピードは、リーマン・ショック時のスピードを上回っている。それはなぜか。
一般的な景気後退の場合は、金融政策と財政政策で景気を刺激して企業の投資や 家計の消費などの経済活動を促していく。しかし、今回は景気を回復させると同時 に感染拡大を抑える必要がある。そのため、ロックダウンと呼ばれる都市封鎖や、日本の「不要不急な外出の自粛要請」など、意図的に経済活動を縮小、または一部で停止させている。通常の景気後退がアクセルを噴かせばいいだけの状態だとすると、今回はアクセルを踏みながら、ブレーキも踏んでいるような状態といえる。
難しい舵取りを求められる中、日本以外の各国・地域がどのような財政政策を早々に決めたのかを見ていこう。まずは今回の新型コロナウイルスの震源地となった中国は、19年にGDP比2.8%だった財政赤字比率の「適切な引き上げ」を容認した。これは大規模減税などの追加的な財政出動をする余地をつくるためである。
それ以外にも、07年以来13年ぶりに特別国債を発行することを決めた。特別国債であれば、財政赤字の比率を高めないため、財政出動を拡大するには都合がいい。既に中国は過去に2回、特別国債を発行しており、その際はいずれも大手銀行への公的資金注入に充てられたが、今回は主にインフラ投資などに充てるという。
次にアメリカだが、こちらは3月に一気に動いた。まずは6日、新型コロナウイ ルスの対策費として83億ドル(約9130億円、1ドル=110円)を計上した20会計年度の追加予算を成立させた。このうち30億ドル以上をワクチンの開発を加速 させるために投じるとした。 同月18日には新たな経済対策法案を可決している。従業員500名以下で、新型コロナの感染者に14日の有給休暇を与えた企業への税優遇、新型コロナウイルスの 検査無料化、失業保険の拡充などが盛り込まれた。感染者数によって金額は変動するが、その歳出規模は100億ドル(約1兆1000億円)とみられる。
また27日には、2兆ドル(約220兆円)の大型経済対策を成立させた。これは 同国のGDPの約1割にあたり、過去最大の規模だ。家計に対しては大人に最大1200ドル、子どもには500ドルを支給するうえ、失業給付の増額を実施。企業に対しては雇用の維持を条件に期間限定で給与の支払いを肩代わりする。更に、医療整備や社債の購入、融資の拡大など対策は多岐にわたる。リーマン・ ショックの際に行った7000億ドル(当時の為替レートで約84兆7000億円) が主に金融機関への公的資金注入だったことを考えると、企業や家計に直接現金を送り込むという今回の財政出動が、いかに通常の経済対策とは異なり、かつ大規模なものかがわかるだろう。
イタリア、スペイン、フランスと国・地域別での死者数上位を束ねるEUでも大規模な財政出動が決まっている。同月23日、EU加盟国の財務相が「財政赤字をGDP比で3%以下に抑える」といった財政ルールを一時停止することで合意した。
また、ドイツは7年ぶりに国債の新規発行を決め、追加予算の財源として約1560億ユーロ(約18兆7200億円、1ユーロ=120円)を用意し、零細企業や個人事業主などへの資金援助を実施。経済安定ファンドを通じた最大6000億 ユーロ(約72兆円)の企業債務の保証や投融資も実施する。
フランスは総額450億ユーロ(約5兆4000億円)を用意。休職している従 業員に企業が支払う手当てへの補塡や、税金の支払い延期などの企業支援をするほか、新規銀行融資に3000億ユーロ(約36兆円)の政府保証を実施する。
イタリアは最大250億ユーロ(約3兆円)の経済対策を発表した。その内訳は 一時帰休扱いとなった労働者への支援や、売上が25%以上落ち込んだ企業への補償などとされている。
※使用されているデータは執筆された2020年3、
森永 康平
金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO
経済アナリスト