「広告費かけても売上伸びない」あなたはどうする?
2018年4月、あなたは、スーツスペシャルの有楽町店店長として働いています。業績の伸び悩みを受けて、社長から特別プロジェクトの責任者に任命されました。本質的な課題を発見し、解決策を社長に提案することを期待されています。本記事のケースはすべて架空のストーリーです。
社名:株式会社スーツスペシャル
本社:東京都
設立:2008年
従業員数:50名
店舗数:都内に10店舗
スーツスペシャルは、特別な一着をお届けするオーダースーツをお客様に提供しています。社長はもともと大手スーツ会社で販売の仕事をしていましたが、既製品ばかりを売るスタイルに違和感を持ち、スーツスペシャルを創業しました。
「特別な一着」というミッションの下に、店舗を増やしてきました。創業は、恵比寿の裏手にある雑居ビル3階からスタートし、今では銀座、青山、新宿など、東京都心に10店舗を構えるまでに成長しました。商品はスーツのみを販売しており、顧客のほとんどが男性です。
(スーツスペシャルの歴史)
2008年 恵比寿店オープン
2009年 日本橋店、青山店オープン
2010年 新宿店、銀座店オープン
2011年 有楽町店、渋谷店、池袋店オープン
2012年 表参道店オープン
2013年 新橋店オープン
(社長の話)
「2013年の新橋出店を最後に、新規出店はストップし、既存店舗での接客の質を上げ、協力工場との関係を強化し、良質なスーツを早く納品できるようにしてきた。各店舗ともに、予約制を採用している。予約はホームページで受け付け、希望時間と氏名と電話番号・メールアドレスを簡易フォームに入力してもらう。
接客時間はまちまちだが、一人につき1時間程度だろうか。予約なしで来店されたお客様でも、入店することはもちろん可能だ。対応できるスタッフがいれば、すぐに接客を行う。お客様には、まず3種類からどのタイプのモデルを選ぶかを決めてもらう。
① スタイリッシュモデル……直線的でスラッとしたシルエット
② ヨーロピアンモデル……曲線基調で柔らかいシルエット
③ オリジナルモデル……全体的にゆったりとしたボックス型のシルエット
その後で、生地を選んでもらう。①②のモデルはすべての価格帯の生地に対応しているが、③のオリジナルモデルは、高級生地しか対応していない。オリジナルモデルは、創業期に有名デザイナーに依頼して作り上げたスーツスペシャル自慢のモデルである。生地は、全部で200種類あり、その価格によって、スーツの金額が決まってくる。
①スタイリッシュモデル、②ヨーロピアンモデルだと、5万〜15万円までの価格になる。③オリジナルモデルの場合、対象がブランド生地だけになるため、価格は10万〜20万円となる。モデルと生地が決まった後はオプションを選んでもらい、採寸を行う。納品までは約4週間の時間をいただいている。
ここ数年、スーツスペシャルはマーケティングチームを立ち上げ、全社的なPR活動を推進している。しかし、ここ最近の動きを見ていると、売上に対する広告費の比率が上がってきている。マーケティング担当に聞いてみても、スーツスペシャルの認知度は徐々に上がり、ウェブ広告のクリック率も上がってきているため、問題がないと言われてしまう。しかし、広告費用をかけているにもかかわらず、売上が伸びていない。むしろ下がってしまった。
業績は順調に伸びてきたが、最近は広告効果が落ちており、その立て直しを考えている。売上も下がってきており、売上を回復させてほしい」
現状分析の次は「何を解決したいのか」を考えよう
あなたは、スーツスペシャルの問題解決に取り組んでいます。ステップ1(現状分析)では、売上低下という現状を分析する切り口を考えて、社内データを確認してみました。その中で、2つの気になる分析結果が出てきました。
データ分析結果(1)は、売上データです。延べ購入件数×購入単価×売上のデータを見ると、延べ購入件数は増えているものの、購入単価は下がっていることが発見できます。また、モデル別の売上比率を見てみると、オリジナルモデルの比率が下がってきています。つまり、オリジナルの比率が下がり、購入単価が下がったことがわかります。
もう一つ気になるデータ分析結果(2)が出てきました。店舗の予約件数×購入率×購入件数です。
このデータを見ると、予約件数は増えていますが、購入率が下がっていることが発見できました。ちなみに、この購入件数は、事前予約を通じて購入した件数となるため、予約なしで購入した件数は入っていません。
データ分析結果が明らかになってきました。さて、ここで今一度確認しておきたいことがあります。いま取り組むべき問題は何だったでしょうか。社長からは、「売上が下がってきており、売上を回復させてほしい」と依頼されました。
スーツスペシャルはこれまで順調な成長を実現してきましたが、ここにきて業績が伸び悩んでいます。問題の発生場所も明らかになってきていますが、そもそも、何を解決したいのか少し曖昧なままです。その状態で走り出してはいけません。
何を解決したら、社長の要望に応えたということになるのでしょうか。また、その問題を本当にあなた自身も解決したいという気持ちになっているでしょうか。ステップ2では、本当に解決するべき問題は何かを認識をしておきましょう。
多くの人が躓きがちな「問題認識」のステップ
■それは取り組むべき問題なのか?
そもそも、いま取り組むべき問題は何だったでしょうか。目的もなく、とりあえず作業を進めるのは良くありません。
いくらでも時間があるのであれば、気になる部分についてすべてを検討することもできますが、時間もお金も限りがあります。だから、本当に解決すべき問題だけに取り組む必要があるのです。そうしないと、何かトラブルが発生したら、モグラたたき的に問題解決に取り組んでしまうことになります。時間はすぐに経過してしまいます。
でも実は、目の前に存在する問題は、そのまま放っておいてもよいかもしれません。だから、それは本当に解決すべき問題なのか認識するプロセスを実施します。
ステップ2「問題認識」は、問題を正しく認識すればよいだけの話なのですが、研修で受講生の提出物を添削していると、この問題認識で躓いてしまうケースが結構あります。
日々の業務に忙殺されていると、その認識が曖昧になってしまうことがあります。また、人間は無意識のうちに、取り組みやすい問題を選んでしまうこともあります。難しい問題に取り組むことになれば、そのあと苦労することになるため、取り組みやすい問題に取り組んでおきたいと思う心理が働くのだと思います。
勘違いされることがあるのですが、問題解決は、最初から落としどころを決めて、その内容を整理するだけの行為ではありません。すでに取り組んでいることをまとめるだけでは意味がありません。
では、どういう問題に取り組むべきなのでしょうか。当たり前ですが、まだ解決していない問題に取り組むべきです。難しい問題こそ取り組むべきなのです。簡単な問題であるならば、もはや問題ですらありません。
また、いまビジネスの調子が良ければ、取り組まないといけない問題は存在しないように感じてしまうこともあります。しかし、問題というのは、ネガティブな部分をなくすという意味だけではありません。問題とは、「あるべき姿と現状」の差です。現状調子が良いならば、さらなる高みを目指してあるべき姿を描くべきです。そういったさらなる高みを目指したい場合には「あるべき姿」というよりも、「ありたい姿」と表現したほうがよいかもしれません。
さらに、ステップ2は、問題はこれであると認識するプロセスであると同時に、ここで、あなた自身の気持ちも問題解決者モードに切り替えていくタイミングでもあります。「この問題を解決するぞ!」と強い気持ちを入れるのです。問題解決を行うのは、あくまで人間です。自分は、本当にその問題を解決したいと心から思えているのかをしっかりと確認しましょう。
問題とは「あるべき姿と現状の差」であるものの…
■問題とは何か?
再度、問題とは何かを定義しておきましょう。問題とは、シンプルに言えば、「あるべき姿と現状の差」です。たとえば、現状は売上が昨年対比20%ダウンしているが、あるべき姿が昨年と同水準であるならば、問題は昨年対比20%ダウンを回復させることです。
「あるべき姿と現状の差」という定義はシンプルですが、私は少し心が通っていない印象を持ってしまいます。問題解決は人間が取り組むものですので、この問題を解決したいという気持ちが入っていなければなりません。それと同時に、自分がやりたいことだけに取り組めばよいという話ではありません。会社員としては、組織にしっかりと貢献するという視点も忘れてはいけません。そこで本連載では、このように定義したいと思います。
「問題とは、組織人として自分が本当に解決したいと思う『あるべき姿』と『現状』の差」
高松 康平
株式会社ビジネス・ブレークスルー執行役員/問題解決力トレーニングプログラム講座責任者/ビジネス・ブレークスルー大学専任講師