本記事は鈴木雄二氏の著作『なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

明治初期まで「東京の冬」は「乾燥していなかった」!?

2012年2月3日付の朝日新聞の記事にこのような内容の記事がありました。気象庁が持っている最も古いデータ、1876年1月の東京都心の平均湿度は78%。1950年代でも50%台後半から70%代が大半をしめるというのです。

 

この記事によると、乾燥してきた背景には都市化による「保水力」の低下があるとしています。緑地が減ったことで雨が降った後に水分をとどめられる土地が少なくなり、土や植物から空気中へ出て行く水分も減ってしまったのです。

 

また新聞では地球温暖化やヒートアイランド現象によって、都市部の気温が当時よりも上がったことも乾燥してきた背景だとしています。現在の東京都心の冬場といえば乾燥が特徴です。2011年12月から2012年1月に、歴代3位の記録となる35日間連続の乾燥注意報が出るとともに、過去最低となる平均湿度36%を記録しています。

 

つまり、明治初期まで東京都心の冬といえども湿度は今よりもずっと高く、「乾燥注意報」が出されるような気候ではなかったのです。私たちの会社で東京全体の湿度を上げることはできませんし、いまさら都市化が進んだ社会をリセットすることは不可能でしょう。

 

いまさら都市化が進んだ社会をリセットすることは不可能だが…
いまさら都市化が進んだ社会をリセットすることは不可能だが…

ウィルスは湿度が低いほど生存率が高くなる?

乾燥しすぎた住環境は、体感温度が下がり、インフルエンザ等の病気にもかかりやすくなります。

 

こうした住まいと健康の関係について、2013年6月、『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』(健康維持増進住宅研究委員会/健康維持増進住宅研究コンソーシアム編著、技報堂出版発行)という書籍が発売になりました。

 

この本は国土交通省の主導で進められた健康維持増進住宅研究委員会等の研究成果をもとにして企画・編集されたものです。

 

「序文」の一部を抜粋します。

 

「日本人は一日のうち約6割の時間を住宅内で過ごすといわれている。その室内では建築内装仕上げや家具などから化学物質が放散され、また生活に伴って水蒸気が発生するため、気密性の高い住宅で適切に換気されていない場合には室内空気が汚染され、結露が発生してカビやダニ等の微生物の繁殖を許すことになる。

 

(中略)どのような室内環境の要因が健康を阻害する可能性があり、どの程度の環境レベルを維持すべきか、ということを、科学的知見に基づいたエビデンス(証拠、根拠:住まい手にとって、少しでも健康を阻害しない環境を実現するための情報)として示すことは、健康で快適に暮らす上で、また適切な住宅を実現するために重要である」

 

この本の中には、私たちの考え方を裏づける「エビデンス」がいくつもあります。そのいくつかを紹介しましょう。

 

同書によると、湿度の上限は「温熱快適性」、「カビの生育」、「ダニの生育」から、下限は「人の生理反応」、「インフルエンザウィルス生存率」から導き出すとしています。

 

「温熱快適性」
人は低温時の湿度の変化はほとんど気にしません。しかし、高温時は発汗の妨げになり多湿を不快に感じます。その上限は70%前後です。

 

「カビの生育」
カビ成長速度は、湿度が100%のときを基準とすると、75 %だと半分程度になり、55%以下だとほとんど成長しなくなります。

 

「ダニの生育」
ダニは湿度が70%以上になると増え始め、50%以下になると半減します。

 

「人の生理反応」
人の口の中が乾燥を起こさない湿度の下限は、気温が20℃だと50%、25℃だと40%です。また、眼球は湿度が30%以下になると乾燥し始めるとしています。

 

「インフルエンザウィルス生存率」
インフルエンザウィルスは、湿度が50%以上になると急激に生存率が低下し、35%以下になると23時間後の生存率は14%から22%と高くなります。つまりウィルスは、湿度が低いほど生存率が高くなります。

外は乾燥しているのに「結露」に悩まされる

このような根拠から同書では湿度の適正範囲を40%から70%としています。エアコンの影響についても指摘しています。

 

いわゆる冷房病とは、過激な冷房によって両足または全身の冷感、倦怠感、疲労感、上気道炎症状、胃腸障害、頭痛、関節痛、神経痛などの身体症状がみられることです。

 

同書では、室温が27℃以下になると冷房病がみられるようになり、25℃以下になると明らかに増加する、とあります。エアコンに頼った暮らしは体にまで影響を及ぼすというものです。

 

自然素材により、湿度の変化を抑制し、快適な住環境を作っていくことの重要性が同書からも読み取れます。

 

エアコンによるドライや加湿器のない時代、どうやって湿度を40%から70%にコントロールしていたのでしょう。気象庁のデータが示すように、冬場も十分な湿度があったと考えれば、まさに「家の作りやうは、夏をむねとすべし」です。

 

湿気が抜けるよう風通しを良くするための間取り、簾戸に着替える夏支度、さらに土壁や障子紙や襖、ムクの木による調湿作用が影でバックアップしてくれる住まいだったのです。冬場も寒ければ囲炉裏で暖をとり、お湯を沸かすことで体感温度も和らげていたのでしょう。

 

それが1960年代後半の大量供給時代に「家の作りやう」は大きく変化します。自然素材から新建材に取って代わられ、土間や土壁の存在が消えた建物の室内は調湿性も熱容量の効果も薄められました。

 

「調湿性も熱容量もない」室内空間は、ビニールハウスを想起させます。住宅はこの方向へ向かっていきます。

 

これは、湿度・温度がともに急変しやすく、結露を発生しやすい室内環境なのです。加えて工業製品のアルミサッシが普及することで、窓の気密性が増し、湿気の逃げ場がなくなり、やはり結露の発生を誘引することになりました。

 

湿度を嫌い、それを対処する住文化をもっていたはずの日本の住まいは、便利になるはずの大量供給の時代を経て、外部環境は乾燥化しているにもかかわらず、結露に悩まされることとなるのです。なんという矛盾でしょうか。

悪者にされた「石油ストーブ」

ところで、エアコンによる暖房に比べ、ガスストーブや石油ストーブが暖かいと感じたことはありませんか。これら開放型暖房機器は

 

①直火による輻射熱の影響

②燃焼時に生じる水分が湿度を高めること

 

が相まって体感温度を高めています。しかし開放型暖房機器の利用は多くのマンションで禁じられています。

 

火災の危険性や燃焼ガスによる室内空気の汚染、ガスや石油等の臭いが禁止の理由として挙げられますが、もう一つの理由は結露をしやすい暖房機器だからではないでしょうか。

 

過乾燥は目に見えないが、目に見える結露は避けたい。それが新建材を供給する側のもくろみではないか。自然素材を使い続けてきた結果、そう考えるようになってきました。

 

また結露を換気不足の仕業にしているのも責任転嫁が過ぎると思います。24時間換気システムが強制された背景には、湿気だけではなく建材から発生する化学物質を適切に排出する意味合いも折り込まれています。しかし、冬の常時換気は寒くてあまり快適とはいえません。

 

輻射(注※中央の一点から周囲に射出すること)による暖房であれば、周辺の壁・床・天井を温めていますので、1時間に1度くらい空気を入れ換えても、窓を閉めればまたすぐに暖かくなります。しかし空気を暖めるエアコンは、空気を入れ換えてしまえば、それまでの暖房を台無しにします。

 

それゆえ、こちらもまた24時間換気システムという、気がつかれにくい少量換気で問題を顕在化させないようにしているのではないかと疑ってしまいます。

 

室内の吸放湿量が適切にあれば、これら開放型暖房機器を使用しても著しい結露が生じることはありません。むしろほんとうに大切なことは、窓を開ければ十分な風通しが得られる間取りを、できるだけ自然素材でつくることだと思うのです。

ナイチンゲールも説いた「換気」の重要性

換気といえば、1860年に記された「看護覚え書」において、フロレンス・ナイチンゲールは換気の必要性を説いています。

 

「伝染病が伝染するのは病原菌のせいではなく、空気がよどんでいるせい。窓を開けなさい」と病院内を衛生的に保つことを何度も何度も書いています。

 

同書の中で「薬を与えることは何かをしたことであり、(中略)新鮮な空気や暖かさや清潔さを与えることは何もしていないことである、という確信がなんと根強くいきわたっていることか」、窓を開けることも大切な看護であり、「具合が悪いのは病気のせいではなく看護が良くないせいだ」と手厳しく記しています。

 

毛布を日に当てること、部屋の掃除をすること、掃除の際には窓を開けること。その一つひとつは当たり前のことに思えますが、最近の高層マンションの中には窓も開けられない部屋もあるようです。

 

やはり未だに必要な喧伝なのかもしれません。

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